ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「べき論」で会社の「暗黙のルール」を壊してはいけない【no.2199】

 会社の文化って、絶妙なバランスで成り立っていると思うんですね。大企業はともかく、中小企業は特に。長年積み重なってきた経営者とメンバーの組織的な関係性が、「暗黙のルール」をつくり上げていることが多くあります。

 だから、「べき論」を振りかざすのはめちゃくちゃ危険なのです。たとえその「べき論」が本質的に正しかったとしても。

*天才的な商売センスのある女性社長

 あるベンチャー企業がありました。経営者であり社長である女性の天才的なセンスで売上を伸ばしている事業の会社です。商売センスの高く、直感的なヒラメキが強い経営者は、えてして「管理」系の仕事が苦手なことが多くあります。この社長も例外ではありませんでした。会社メンバーと合意している就業規則は特になし。出社のルールもあいまいで、スタッフは9時過ぎから10時前後までの間に出社すればよい。そんなことが会社の暗黙のルールになっていました。

 経営者の商才とメンバーの個性で売上を伸ばしてきた会社でしたが、さらに新しいメンバーを加え事業を拡大していこうと考えました。そこで、経営者はコンサルタントを招聘したんですね。目的としては、これまで事業が伸びてきた要因である社長の直感やメンバーのナレッジを言語化し、新しいメンバーにも展開していくこと。つまり、社長の「子ども」をたくさん作っていくこと。ではあったのですが、コンサルタントは他の部分に改善の必要性があると考えました。それが、組織体制の整備だったんですね。

*「べき論」としては正しいルールづくり

 コンサルタントは、きちんとした就業規則や評価ルールを作りましょうという提案をします。これまでは、経営者がスタッフ個々人からの個別の要望に対して、個別に対応をしていました。それはもちろん、人によっての不満の対応内容のズレが評価基準のズレを生んでいたわけなのですが、それでも会社は回り、事業は伸びていたわけです。ここに、きちんとした就業規則と評価ルールを導入しましょう、と。「べき論」として正しいように感じますが、この会社はどうなったのか。

 この経営者はそもそも「管理」系の仕事が苦手なわけです。就業規則や評価ルールを、自分自身が徹底できるようになれませんでした。それでも、コンサルタントが四六時中この会社に引っ付いているならば、経営者とスタッフに新しい規則・ルールを徹底することができるのかもしれませんが、コンサルタントが会社に接触するのは週に数時間しかありません。経営者がこれまでつくってきたウェットな文化と、コンサルタントが導入したドライなルールの両方が中途半端に両立することになってしまいました。

*「暗黙のルール」こそ「正しいルール」

 こうなると困るのはスタッフの皆さん、ではあるのですが、次第にお互いメリットとデメリットを理解し、メリットだけをつまみ食いする状態にもなりました。自分自身の不満や要望はこれまでどおり直接経営者に相談し交渉、残業手当や有休取得についてはコンサルタントの導入した規則を支持するようになります。ただ、出社はこれまでどおり9時過ぎから10時前後までの間で・・当たり前ですよね。結果、少しずつ組織は壊れていきました。正しい「べき論」を導入しようとしたハズなのに。

 つまり「べき論」なんてものは最初から必要なかったのです。これまで積み重ねてきた「暗黙のルール」こそが、この会社にとっての「正しいルール」であり、この会社の文化であったわけなのです。ここで冒頭に戻ります。中小企業の文化は「絶妙なバランス」で成り立っています。「べき論」を振りかざすことは、会社全体のバランスを崩壊させることにつながりかねません。大切なのは、経営者の得手不得手とスタッフの皆さんとの関係性、そして会社の文化をまずしっかりと「感じる」ことなのです。

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石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから