ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「EC=売上」だけじゃない!ECに取り組む重要な価値。1【no.2184】

 ECというと何を思い浮かべるでしょうか。

 インターネットを通じて、モノを売る、商圏のない世界から売上をつくる。いわゆる「物販」をイメージすることがほとんどではないかと思います。しかし、「EC=物販の売上」だけを目的とするならば、売上が立たなければECをやる必要がないのか?というとどうでしょう。

 答えは否です。「EC事業に取り組むことで、会社全体の動き方を変えていく」、これがEC事業に取り組むことの重要な価値です。その価値は「ECサイトから売上を上げる」ことよりも大きな価値かもしれません。

 ひとつ、例を挙げます。

*とある会社がECをはじめた背景

 その会社さんは、小学校・中学校に授業で使う教材を卸しています。その業界は、エリアの制限が強く、特定のエリアの小学校・中学校でしか教材を販売することができません。多くのリアルビジネスに慣習が残っているように、同業内での「棲み分け」ができているんですね。

 良くいえば既得権益で守られている。悪くいえば競争と拡大ができない。ただ、大まかな市場の流れからすれば、授業で使う教材の注文は「子どもの人口の減少」や「IT化・オンライン化」によってシュリンクする傾向にあります。同業のどの会社も、少しずつ売上を減らしている状況であるわけです。

 そこでこの会社さんは、ECをはじめました。理由としては、小学校・中学校に教材を卸す時期が入学式後の2-3ヵ月に集中し、繁忙期と閑散期の差が激しいこと。そして、自らの得意分野である小学校・中学校に対して「エリア規制のない」商品を全国に販売すること。このふたつが狙いです。

*商品Aの注文からの気づき

 そこで目をつけたのが、小学校・中学校の卒業・入学の際に使うある商品(以降、商品A)でした。この商品Aについては、ここでは書けませんのでご容赦ください。この商品Aならば、エリアの規制もなく、また10月から2月までの間の閑散期を埋められることになるわけです。

 商品AのEC販売は比較的順調にスタートしました。インターネット上の競合が多くなかったのか、早い段階から注文が入ります。卒業・入学に使う商品ですから、数十個単位の注文が多く、客単価が高くなりやすいことも幸いでした。ここまでだと、先に書いた「EC=物販の売上」ではあるのですが、ECでの注文を受けているとあることに気がつきます。これが「EC=物販の売上」だけではないことに気づくきっかけにもなりました。

 小学校・中学校からの注文の中に、時折「少年スポーツクラブ」からの注文が混ざっているのです。野球やサッカー、ミニバス、水泳教室などからの注文があるのでした。いずれも小学生・中学生が関係するところですので、最初は気に留めていなかったのですが、ある日お客様から電話がありました。「卒団式で使いたいのですが・・」。ここで、少年スポーツクラブの皆さんが注文してくれる理由が「卒団式」であることに気づいたのです。

*マーケティングの分岐点を逃さない

 実はここがマーケティングの分岐点なのです。多くの人が「ああ、卒団式で使うんですね。おめでとう。商品Aを丁寧に収めなきゃね」になります。もちろん、これはこれで良いのですが、ひとつの機会を失ってしまっています。それは、少年スポーツクラブには「卒団式」というものがあること、そしてその卒団式では商品Aが使われるケースがある、ということです。

 これこそが、新しいニーズの発見です。この時点ではこの新しいニーズが年商100万円程度のものなのか、それとも年商10億円程度のものなのかは、まったくわかりません。ただ、ニーズがあることは事実なのです。

 「EC=物販の売上」と考えていたら、「ひとつの注文」「1件の売上」として扱われてしまうことでしょう。もっと発想を広げて、ECをつうじて新しいビジネスをつくる、会社全体の動き方を変える、と考えて欲しいのです。

 次回は、このニーズの発見によって会社がどう変わったか、についてです。

 つづく。

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから