「JRE BANK」がEC市場にもたらす影響とは【no.2150】
JR東日本社が「JRE BANK」サービスを開始することが発表された。今回のコラムはJRE BANKとその市場にあたえる影響について。
去る4月9日、JR東日本グループブランドのネットバンクサービス「JRE BANK」が発表された。基本的なサービス内容としては、他のネット銀行と特段変わらないのだが、ネット上をにぎわせているのは口座開設とのその利用にともなう特典だ。
*気になるJRE BANKの特典とは
(1)JRE BANK優待割引券
割引券1枚でJR東日本営業路線内の片道運賃および片道料金を4割引します。
(2)どこかにビューーン!2,000ポイント割引クーポン
どこかにビューーン!を通常から2,000ポイント引きでご提供します。
(3)(モバイルSuica限定)Suicaグリーン券
普通列車グリーン車を無料でご利用いただけるSuicaグリーン券をご提供します。
(4)JR東日本グループ会社のさまざまな特典
JR東日本グループ会社のさまざまな特典をご用意しています。
以上の上記4点については、JR東日本社のプレスリリースからそのまま転載させていただいた。ネット上の反応としては「4割引きって、そもそもの利益率どうなってるんだ」「グリーン券タダって、大丈夫なのか」といったものが多いのだが、基本的に鉄道は乗車率100%を目指すビジネスモデル(満員電車は除く)であるはずなので、空席が出るくらいならば割引してでも埋めてしまった方がいいのだ。
*人が動けばどこかで売上になる
むしろ驚きなのはJRE BANKの口座獲得のために、これだけのサービスを決定したことにある。JALやANAなど航空サービスにおいてはダイナミックプライシング戦略が当然のごとくおこなわれているが、JRについては国鉄を基にしているためか、プライシングの変更をしないのが暗黙になっている感があった。たとえばGWやお盆休み、年末年始でも新幹線の料金は一緒であり、逆に閑散期でも料金は一緒である。
そんな暗黙から株主優待などではなく、一般に「割引き」「無料で提供」というカタチで一歩足を出したのは、今後のマーケティングにおけるJR東日本社の気合のあらわれとも感じることができる。そもそも、JR東日本社自体、鉄道だけをビジネスにしているわけではなく、ホテルやレジャー施設、駅ビルなどのビジネスも展開しているわけで、乗車料金を大きく割引したとしても、人が鉄道を利用して頻繁に動いてくれたならば「必ずどこかで売上になる」ビジネスでもあるのだ。
*他モールと競う準備が整った?
EC的な観点からみると、JRE BANKの開始がJR東日本社が運営するECモールである「JRE MALL」へどう影響をおよぼすかが今後の注目のひとつになる。楽天市場・楽天カードにおける楽天銀行、Yahoo!ショッピング・PayPayカード(旧Yahoo!カード)におけるPayPay銀行、と同様にJRE MALL・ビューカードとJRE BANKという仕組みができるようになり、楽天グループ、ソフトバンクグループと同レベルのサービスが提供できる土壌が整うともいえる。
そもそもポイントという観点でいえば、提供サービスの利用によりポイントが溜まる楽天やYahoo!よりも、鉄道というインフラの利用でポイントが溜まる「JRE POINT」の方が、「普段の生活を送っていればポイントが勝手に溜まっている」という点で魅力が高いわけで、前述の鉄道乗車料金のサービス同様、JR東日本社のさじ加減如何でいくらでも逆転の芽はあると考えられる。
また、JR東日本社は駅という「場」をもっているだけではなく、Suicaカードを通じて「リアルの行動履歴データ」を大量に保有しているわけで、JRE MALLからのネット上のデータとSuicaカードのリアルのデータを組み合わせれば、ネット中心の会社よりも精度が高く、幅の広いマーケティングが展開できるようになるわけだ。
JR東日本グループは、グループ経営ビジョンとして「変革2027」を提唱している。これからどんなJRE POINT生活圏を拡充していくのか注目したい。
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