ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「顧客を絞る」ことで、サービスは洗練されていく【no.1809】

 「顧客を絞る」ことで、サービスは洗練されていく。

 「顧客を絞る」ことは大切です。絞ることで、戦略に深みが出ます。絞ることで、より強い訴求力が生まれます。広げることで「どんな人にも刺さる」コンテンツなどできるわけがありません。なぜなら、いち顧客としてのあなた自身が求めているものもそうでしょう。

 顧客としての自分自身はより深い情報を求めているはずです。なぜサービスを提供する側になるとそれができないのか。「ペルソナ」や「セグメンテーション」や「ターゲット」の根底にある「顧客を絞る」ことについて考えます。

*週刊ダイヤモンドの顧客像で聞いたこと

 2016年10月に逝去した弊社の初代取締役である岩佐豊氏。東京原宿の出版社「ダイヤモンド社」の社長・会長を務められていました。ダイヤモンド社の代表的なサービスといえば、経済誌の「週刊ダイヤモンド」です。岩佐さんは週刊ダイヤモンドの編集長も経験されています。

 週刊ダイヤモンドの編集は「あるひとりのお客様」をイメージすることから始まります。「港区に住んでいる大企業の課長、出身大学は慶応。年齢は38歳で年収は800万円、既婚で子どもが2人。上の子は中学受験のため塾に通っている」。このような特定の顧客像を設定するのです。

 この顧客像は数年に一度、時代に合わせて調整をかけるものの基本的に一定です。週刊ダイヤモンドはまさしく「週刊」ですから、年に50冊発刊されることになります。「お客様は今どんな情報が欲しいのか。次は何を考えるだろうか」。顧客像に志向を合わせて、編集部は50冊のストーリーを考えていくのです。

*週刊ダイヤモンドにおける編集長の役目

 週刊ダイヤモンドには副編集長が数名います。副編集長はいわば現場のリーダー。岩佐さんは週刊ダイヤモンドの編集長の前に、週刊ダイヤモンドの副編集長も経験されています。

 副編集長は常に現場を動き回っており、昼間はほとんど社内にいません。編集長はずーっと社内にいて、デスクに座ってお茶を飲んでいれば良いというのです。唯一の仕事は副編集長陣がもってきた大量のネタ・情報を判断すること。これが最重要だといいます。

 そしてその判断は何を軸にしておこなうのか。「雑誌が売れそうか売れ無さそうか、ネタが面白いか面白くないか」ではありません。顧客像として設定したお客様が「読みたいか、読みたくないか」それだけだというのです。

 現場はとにかく情報を集めまくる。それを社内で唯一「お客様の立場から判断する」のが編集長というわけです。仮にスクープがあったとしても、お客様が「読みたくない」と判断したらお蔵入りです。「それはお客様が知りたいネタじゃないだろ!」と部下を叱ることも多かったようです。

 「顧客を絞る」からこそ、洗練されていくのです。顧客を広げてしまったら、「面白ければ何でもいい」になります。

*「良いところを探し、伸ばす」本当の意味

 岩佐さんが弊社の取締役を務めてくれていた頃、よく言っていたのが「俺は、石田の良いところを探しているんだ」でした。良いところを探すと同時に、悪いところを直すことが大切のようにも感じます。しかし、岩佐さんの考え方は違います。「良いところをとにかく探す。そして良いところを徹底的に伸ばす。悪いところはよほどの『致命傷』でない限り無視する」というのです。そして、この後のひと言が岩佐さんらしいところです。

 「良いところを伸ばさないと雑誌は売れるようにならねぇんだ」と。

 世の中にはたくさんの情報がある、面白い情報も、興味深い情報もたくさんある。その中でひとつぬけるためには「良いところを徹底的に伸ばす」しかないというのです。顧客を広くしてもお客様の心を掴むことはできません。それどころか、お客様に存在を気づいてもらえることすらできません。

*絞ったものが結果としてスタンダードになる

 「顧客を絞る」ことは市場と成長性を自ら狭めているような恐怖感があります。だから顧客を広げたくなるのがごく普通の心情です。しかし、週刊ダイヤモンドが市場の狭い雑誌だと言えるでしょうか。ポイントは「顧客を絞る=市場を狭める」ではないということです。「市場においてマスでスタンダードなものを『顧客を絞っていないが故のカタチ』だと思ってしまう」。これはマーケティングの大きな勘違いです。全くの逆です。

 ユニクロもトヨタも顧客を絞っていた。その絞ったものが「結果としてスタンダードになってしまった」だけ。それが現実ではないでしょうか。

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから