今回は「顧客軸のマーケティングの活用」についてお話します。
「顧客軸のマーケティング」をいかに活用するか
前回のコラムで「顧客軸のマーケティングの展開」とはなにか。その概念について説明をしました。従来のマーケティングは「商品軸のマーケティング」です。デジタル・インターネットの登場が「顧客軸のマーケティング」を実現しています。そして我々が取り組んでいる「EC」こそ「顧客軸のマーケティング」の最たるものです。市場環境の背景も後押しし「顧客軸のマーケティング」の強化がより重要になります。CRMやSFA、AIやMAはすべて顧客を軸としたマーケティングツールです。
さてECにおいて「顧客軸のマーケティング」をいかに活用するのかという話です。顧客を軸としたマーケティングの基本といえるのが「リピート率」の計算でしょう。リピート率やリピート数は顧客データを保有していないと算出することができません。従来型のコンビニのマーケティングでは、リピート率を計算できないわけです。
「レコメンド機能」が顧客軸の代表例
リピート率といっても、初回購入から2回目のリピート率、3回目以上のリピート率、商品やサービスごとの複数購入ど、切り口によって計算方法が変わってきます。もっとも一般的だと考えられる「初回購入から2回目のリピート率」の場合です。「初回購入者のうち2回目の購入をおこなった人の人数」を「初回購入者数」で割ることによって算出されます。このような感じで計算方法も様々です。
また「顧客データ×受注(注文)データ」の掛け合わせで、「初回購入で●●を購入したお客様はその後もリピートする(2回目の購入につながる)可能性が高い」だったり、「初回購入で●●を購入したお客様は2回目の購入で▲▲を購入する可能性が高い」だったり、といったデータを算出することができます。これは「顧客データ」というものが存在するからこそできる技です。従来のマーケティングでは単に「商品の売れ筋順」というような分析しかできません。
ちなみに「顧客データ×受注(注文)データ」の掛け合わせにおける、「初回購入で●●を購入したお客様は2回目の購入で▲▲を購入する可能性が高い」というマーケティング分析の使いどころ。これはショッピングモールで見られる「レコメンド機能」があげられます。あなたと同じ興味の人はこんな商品を購入しています(見ています)のアレですね。このマーケティングの仕組みは顧客軸のマーケティングの代表例といえます。
中小のEC事業でもマーケティングはできる
中小のEC事業においても、発想さえあれば「顧客データ×受注(注文)データ」で様々な提案をすることが可能です。高額なツールを導入しなくても、月額1万円ほどのツールもあります。自社のデータからエクセルやアクセスを使って分析と提案をおこなうこともできます。すべては「顧客軸のマーケティング」という観点があるか否かだけです。
中小のECの場合、初回購入の商品はほとんどのケースで偏ります。導入の商品(エントリー商品)を購入したお客様がその後どのような購買行動をしているかを分析して、2回目の購入をしてもらうために「いつどの商品をどのように提案したらよいか」このあたりから取り組んでいくのがシンプルで良いと思います。
お買い物を楽しんでもらうためのふたつの視点
お客様にお買い物をもっと楽しんでもらうためにはふたつの視点しかありません。ひとつは「商品」です。新しい商品を定期的に発売すること。売れ筋商品の在庫を絶やさないこと。売れ筋商品の縦展開横展開の商品を発売すること。ロングテールの品ぞろえを実現すること。お客様は商品を買いにきているわけですから、まず「商品」を充実することが大切です。
もうひとつが「販促」です。お客様に商品の活用の仕方や楽しみ方を提案すること。いま買う理由をつくってあげること。お客様の購買意欲を盛り上げてあげること。販促企画をおこなうことでお客様の購買を促進していきます。
販促が特に有効になるのが美容系や健康食品系など、いわゆる単品通販のECです。単品通販のECの場合はオンラインショップで取り扱う商品数が多くはありません。販促企画をおこなうことで新規のお客様を増やす、既存のお客様の購買を活性化することが重要になります。新商品を投入するには仕入れや生産ロットなど様々なリスクがかかります。お客様には「商品」を提案するのが良いとわかっていても、「販促」でEC運営をつなぐしかありません。
「理由」がなければよくある販促になる
販促で重要になるのが、「理由をつくる」こと「データで成果を検証する」ことです。ふたつのポイントを押さえることで、よりEC事業の販促がレベルアップしていきます。
まずは「理由をつくる」です。販促は安易に考えればいくらでも安易に企画できてしまうものです。たとえば、「クリスマスなので10%OFFクーポンをお付けします」「母の日対象商品のみ500円引きです」「夏の大セール。全品20~40%引き&おまけつき」など。こういった販促企画は簡単にできてしまいます。どんなオンラインショップでもできてしまいますし、横並びになりがちです。どこかに「理由」がなければ「また販促やっているのか~」というお客様の冷ややかな声が聞こえてきそうです。
大切なのは「理由をつくる」ことです。前述した「クリスマスなので10%OFFクーポンをお付けします」ならば、「クリスマスなので」と「10%OFFクーポンをお付けします」の間に「理由」をつくります。これが販促づくりの第一歩です。「クリスマスなので『ECMJサンタがやってきた』10%OFFクーポンをお付けします」などと「理由」を入れるのですね。そしてこの「理由=ECMJサンタがやってきた」の部分は、自社の商材やサービス、店員さんやテンションなど、ECチームの個性を発揮して埋めたいところです。
商品やお客様に合った勝ちパターンを探す
そして販促をおこなった後、「データで成果を検証する」ことを忘れないでください。前述したような「10%OFFクーポン」「500円引き」「おまけつき」など、お客様の特典に対してどの手段が成果ができるのかは企画をした段階ではわかりません。商品との組み合わせやトレンド・季節性によっても成果が変わってくるはずです。成果検証をおこなって商品やお客様に合った勝ちパターンを探していってください。
EC事業について「販促」は重要です。ただ、あくまで「商品>販促」であることは理解をしておいた方が良いと思います。強い商品を販売することができたならば、実は販促は必要ありません。
特定のニーズへの訴求力を強める
単一のショップが年商1億、5億、10億と成長していくこともありますが、多くの場合EC事業の成長の壁に当たってしまいます。ECサイトの規模が大きくなればなるほどマスなお客様の要望をかなえるためのオンラインショップに傾きます。絞ったお客様への訴求力が弱くなっていってしまうのです。マスなお客様の要望をかなえるオンラインショップ。そうなるとAmazonなど超大規模サイトと競合することにもなります。
EC事業の成長の過程の中で検討したいのが、「EC事業の専門店化」です。つまり、現在運営しているオンラインショップから「一部のニーズ」を切り出して、そのニーズをかなえるためのオンラインショップを立ち上げ運用するのです。これによって特定のニーズを求めるお客様の訴求力をより強めます。オンラインショップとの関係性をより強いものにすることができるのです。
単一のオンラインショップで年商5億円を目指すのか。専門店化をすることで年商1億円のオンラインショップを5店舗運営するのか。ご存じのとおり、ECは商圏のない世界です。日本中、世界中のユーザーが自社のオンラインショップのお客様になります。それと同時に日本中、世界中のオンラインショップが自社の競合になりえます。そう考えると年商1億円のショップを5店舗運営する方が基盤は安定するといえます。
専門店化のためのハードルはなにか
この「ECの専門店化」にはいくつかのハードルがあります。ここで紹介していきます。
ひとつは、いわゆる「店長」。オンラインショップの責任者の役割を誰が担うかです。5店舗の運営となると5人の店長が必要になります。5店舗各々が専門的な商品の領域を担うわけです。まったく異なったマーケティングが必要です。同一の店長が複数の店舗を持つことは現実的ではありません。最初にスタートしたショップのノウハウをいかに展開するかが成功のカギになります。
次にオペレーションの問題です。管理するオンラインショップが5店舗になるとそれだけオペレーションの量が増えます。コンテンツの量も5倍になります。自社サイトやショッピングモールの出店をおこなう場合、全体で20以上のサイトを運営することになるのです。コンテンツ管理や在庫管理、物流管理、広告費の管理。広い目で事業をみることがポイントになります。
専門店化はある程度スクラップ&ビルド
そして市場規模の問題です。オンラインショップを専門店化し、特定のお客様に絞ったオンラインショップを立ち上げ運用したとしても、そのニーズの市場規模は様々です。実際に運営をしてみると「そこまででもなかった」ということもあるでしょう。専門店化した5つのオンラインショップに同じように力を入れないことです。成長性を判断し、場合によっては早期の撤退もありかもしれません。専門店化はある程度「スクラップ&ビルド」です。継続ラインと撤退ラインを設定しながら対処していきましょう。
「市場で勝てるか、どれくらいの規模に成長しそうか」は初速です。初速である程度判断することができます。
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