著者:石田 麻琴

事業をレベルアップさせるEコマース成功の条件【no.2037】

 今回はECの成功の条件を書いていきます。これからECを始める。これからECに本腰を入れる。さらにECをレベルアップさせる。そんな事業者の皆さん向けの内容です。

*条件1:市場感、市場性

 EC成功のための一つ目の条件。それは「市場感」です。

 いくらサービスが良くてもいくら商品が良くても、それが一つ目の条件とは言い切れません。いいサービスだから必ず売れる、いい商品だから売れるのではありません。「人に知られるから」売れるのです。いいサービスやいい商品というのは前提条件です。

 成功の条件の一つ目は「市場感」です。マクロな視点でいえば、インターネットの世界は「需要<供給」の状態にあります。一定の需要を多くの事業者で取り合っている状態です。ただ特定のジャンル、そして商材については「需要=供給」「需要>供給」の状態です。

 自社の商材が「市場においてどんな状態にあるのか」を理解することが大切です。当然、「需要<供給」の市場の中では先行者が有利になります。先行者にはEコマースの運用の仕組みもシステムも人財もそろっています。自社が「需要=供給」「需要>供給」の状態になるにはどうすれば良いか。それを考え、アプローチしていくことが大切です。

*今さらこの新規参入はない市場が有利

 「今さらこのジャンルに新規参入はないよな」。そんなポジションに入り込めば、これ以上「供給」側が増えることはありません。いまECを展開している事業者に勝てば、自社ジャンルを制覇することになります。これからECを始める、これからECに本腰を入れる、さらにECをレベルアップさせるにあたり狙いたいのはここです。

 裏を返せば新規参入のネットショップが出てくるジャンル。それは常に「需要<供給」の危険性と隣合わせです。後発の競合に勝たなくてはいけないだけではなく、競合とともに市場を拡大させていかなければいけません。全員で泥船にのってはいけないのです。

 またECは先行者有利ですが、新規参入は新しい感覚のマーケティングを進めてきます。人は必ず年を取ります。Eコマースをスタートしたときが一番若く、いまが一番年を取っています。ECをスタートさせたときの感性が一番若く、これからは感性が衰えていくばかりです。動画、SNS、ライブ・・新しいマーケティングにこの先ついていけるでしょうか。

 Eコマースで成功するか、それとも成功しないか。それはどんなサービス、どんな商材を選ぶかでいくらかは決まってしまう、とも言えます。

*「ネットで売る」ための原理原則

 Eコマースの成功の条件。二つ目は「ネットで売る」ための考え方をもっていることです。端的にいえば、マーケティング力。それもデジタルの世界で商品を売るためのマーケティング力です。

 いい商品を販売していたとしても、「ネットで売る」考え方をもっていないと、お客様に商品の価値を伝えたり、お客様に商品を認知してもらう力が弱くなります。インターネットにはインターネットの売り方があります。リアルの売り方をインターネットでしても成果につながらないのです。

 「ネットで売る」ための考え方は「データをとって、毎日カイゼン」です。リアルの売り方とネットの売り方の大きな違いは、施策の選択と判断の軸の違いです。「データ」を裏付けにして日々の行動のもとになる仮説を立てていくのです。

*「的当てゲーム理論」を行動習慣化する

 「データをとって、毎日カイゼン」を表現しているのが「的当てゲーム理論」です。ネットを活用して成果をあげるには、的に向かってボールを投げるだけでは不十分です。的のどのあたりに当たったかを判断する「音」を聞かなければいけません。この「音」こそデータです。

 「データをとって、毎日カイゼン」の理屈は非常にシンプルです。市場とお客様に向かって自社がおこなった行動を記し、データを同時に記しておく。そして施策と成果という「原因と結果」の相関性を探していくのです。またデータに異常値があらわれたら、その異常値がおこった原因を探していきます。次の施策のヒントになる可能性もあるはずです。

 理屈はシンプルですが、行動につなげることができるかは別の問題です。「データをとって、毎日カイゼン」。これは時間があるとき、余裕があるとき、思いついたときにやる仕事ではありません。息を吸うのと同じように、習慣的として身体に沁みこませなければいけないのです。何が難しいかといえば「データをとって、毎日カイゼン」の習慣化です。

*「データ」が正解に近づいているか教えてくれる

 Eコマースのマーケティングはシミュレーションです。市場やお客様に向かって何かの施策をおこないます。そうすると何かのデータが出ます。おこなった施策が良かったのかそうでもなかったのかの判断ができるわけです。施策の成果としてデータをみることは辛いことかもしれません。しかし施策の効果を「データが教えてくれている」くらいに思っていればいいのです。

 「ネットで売る」ための考え方は、「『何でそうなったのか』がわかれば、『どうすればそうなるのか』がわかる」です。ヒットする施策は誰もわかりません。正解は誰もわかりません。でも「データ」が正解に近づいているか否かを教えてくれます。

*戦略。どこに徹底するか。「違い」

 三つ目は「戦略」です。戦略といっても難しい話ではありません。シンプルにいえば、マーケティング展開のリソースをどこに集中させるか。自社と他社の「違い」をいかにしてつくっていくか。それだけです。話としてはシンプルなのですが、これを「やりきる」ことこそ本当に難しい。だからこそ、多くの事業者がインターネットの戦略に困っているわけです。

 ネットの市場は拡大していると同時に、競合の数も爆発的に増えています。成功の条件の一つ目に「市場感・市場性」をあげました。「市場感・市場性」の段階でECの参入が閉ざされてしまう事業者は決して多くはありません。「状況としては簡単ではないでしょうが、ネットの売り方を学んで、「違い」づくりを頑張って、継続していきましょう」という程度です。

 現状ではECの成功は「『ネットの売り方』の原理原則」と「戦略。『違い』。徹底」でカバーできます。いかなる商品・サービスでも突破できない市場ではありません。

*マイケル・ポーターの「戦略」とは?

 さて、先に「戦略」という言葉についての定義を紹介しました。これをより明確にするために、こちらのECMJコラムを読んでみてください。

◆マイケル・ポーターが語った、『戦略』とは・・?【no.0101】

 戦略とは「他のことをやらない」こと。一本の軸を徹底して継続し突き抜けること。そうマイケル・ポーターさんは言っています。一本の軸を徹底していくときに、おそらくふたつの課題に行き当たるでしょう。ひとつは「自社は何に徹底していけばいいのか」という課題。もうひとつは「徹底すると決めた軸をぶらさない」ようにするための課題です。

 ECMJが相談を受けたとき、ヒアリングの中で探しているのが「一本の軸」です。ネットという商圏のない広い海の中でどこに「違い」をつくれるか。それは商品なのか、サービスなのか、会社なのか、情報なのか、それとも人なのか。徹底するポイントが見えれば、それが戦略になり、市場での「違い」になります。

*「違い」は認識できるから「違い」になる

 情報過多の時代、モノがあふれる豊かな時代です。商圏のない世界で中小企業が大企業や先行者に真正面から勝てるわけがありません。見つけたいのはたったひとつの「違い」のタネです。これを見つけることができれば「戦略」が決まります。

 そして「違い」は自社の中で議論していても見つかりません。外の人間が見ることで「違い」を発見することができます。それはなぜか。「違い」は「外側の人間」が「違う」と認識しなければいけないからです。自分たちだけが「うちは違うんです!」と言っていても、残念ながら価値はありません。

 「違い」を探すためのポイントです。社内メンバーだけではなく、外部の人間を混ぜて話し合ってみても良いかもしれません。いくつかポイントを紹介します。

*商品の「違い」

 販売商品に「違い」があれば、それだけで他のECに差別性があることになります。ただ、多くのネットショップにとってこれは簡単なことではありません。「他のどこにも売ってない商品」は「誰にも探されていない商品」になりがちです。「他のどこにも売っていない商品」が「みんなに探されている商品」になることができれば、あなたは億万長者です。

*サービスの違い

 たとえば決済方法。クレジットカード決済、銀行振込、郵便振替、コンビニ決済・・等々。競合よりも多数の選択肢を持つことで「違い」を出すことができます。配送方法も同様です。特定の配送業者だけなく、複数の選択肢が広がればそのままアドバンテージになります。ギフト対応、ギフト対応の選択肢の広さも差別性をつくるための道具になります。

*店舗(会社)の違い

 もし母体となる事業者の社歴が長いとするならば、WEB上でもその旨を発信すべきです。また実店舗が存在するならば、「実体性=信用」につながります。お客様に伝える努力を徹底していきたいところでしょう。特定のコンセプトのショップならば、「このお店は何なのか?」を伝えたいところです。セレクトショップのセレクト理由を伝えるわけです。

*人の違い

 取り扱っている商品が同じようなものだったり、提供しているサービスが似通ったり、社歴が特に長いわけでもなく、実店舗もない。だとすれば、最後に残るのは「人の違い」です。人の違いは絶対的なものです。こればかりは競合他店のネットショップは真似ができません。経営者やスタッフのキャラクターを前面に押し出して友達のような共感を得ましょう。そうやって生き残っているEコマース専業の会社もあります。

*情報の違い

 情報量が多ければそれだけでも「違い」になります。商品の画像が徹底的に魅力的であればそれも「違い」になります。商品の用途・目的の「提案」が上手ければ痒い所に手が届くWEBサイトになります。情報の違いはセンスもありますが、ある程度「努力」でカバーすることができます。

*「違い」はジャンル・カテゴリで違えばOK

 もうひとつ、「違い」を考える上で知っておきたいことです。「違い」は自社の商品ジャンルの中で発揮できていれば問題ありません。たとえば、家具屋さんならば家具カテゴリの中で「違い」があれば大丈夫です。玩具屋さんなら玩具カテゴリの中で「違い」があれば大丈夫です。問題は競合と「比較された」ときにどういう理由で自店が選ばれるかです。

 もしかしたら「絶対的な違い」をつくることは簡単ではないかもしれません。でも、「自社が比較されているとすれば・・」の競合をいくつかピックアップして、「どこで選ばれる理由をつくれそうか?」はいくつかアイデアが出てくると思います。まずは「勝てそうで」「できること」から。それで勝てなければもっと大枠の「違い」に取り組んでいけばいいだけです。

*運用改善。ツール。スキル。ノウハウ

 EC成長のために、この「運用改善。ツール。スキル。ノウハウ」がもっとも重要だと考えている事業者さんもいるかもしれません。テクニックがあればECは成功すると思っている事業者さんもいるかもしれません。しかし、テクニックの重要性はあくまで最後です。以前の三つを満たしていないとテクニックは宝の持ち腐れになります。そして、新しいノウハウを生み出すこともできません。

 ネットショップの運用改善のルールは「データをとって、毎日カイゼン」です。「数値管理表」を使ってネットショップの日々の運営業務を回していきます。ネットのマーケティングは「仮説」のマーケティングです。施策を「データ」で検証し、「仮説」を立てることで成功に近づくことができます。

*ツールとスキルの考え方

 ネットショップのツール。受注管理、物流管理、顧客管理などのバックヤード系システム。そしてMAやCRM、BIなどのフロントヤードの新しいツール。これらが日々リリースされ、またリニューアルされています。ツールをすべて把握することは不可能です。自社のEコマースのビジネスモデルを定義した上で適したツールを選びましょう。ツール選びは信頼できる担当者さん、会社さんを選ぶことも成功に大きく繋がります。

 ネットショップのスキル。画像撮影のスキル、画像加工のスキル。HTML/CSSのコーディングスキル、バナーの作成スキル、システム構築スキル。WEB制作に寄りがちですがその内容は様々です。ここで紹介したいのはパソコンスキルの大切さです。ネットショップの運営業務は単純作業が多いのも事実。多くの場合は人で単純作業をカバーすることになります。ショートカットキーやデュアルモニター活用などで業務効率をアップさせます。根本としてのパソコンスキルを高めたいところです。

*ノウハウは「動く」から得ることができる

 ネットショップのノウハウ。Eコマースもここまで一般化すると隠されたノウハウというのはほぼありません。WEBや本やセミナーでベースのノウハウは十分学ぶことができます。ここで得られないノウハウは二つです。ひとつは最新のノウハウ、もうひとつは自社だからこそのノウハウ。この二つは詰まるところ、人から教えてもらうものではなく運用改善を繰り返していきながら、自分でノウハウ化していくものです。「良いノウハウが見つかったら動く」は愚の骨頂。動くから「良いノウハウ」が見つかるのであって、動かなければノウハウは得られません。

 ―――ここまで「Eコマースの成功の条件」として四つのポイントをご紹介しました。Eコマースはまだまだこれで終わりの業界ではありません。勝負はまだついていません。

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