著者:石田 麻琴

Eコマースの「利便性」はどこまで成長に関係する?【no.1873】

 先日、ネットショップ担当者フォーラムさんでウェビナーに登壇させてもらいました。私とECMJのシニアコンサルタントの武田さんとの掛け合いで、Eコマース事業の「組織・人材・仕組み」について話していく会だったのですが、ウェビナー中にいただいた質問がいくつかあるので共有したいと思います。きっと同じ悩みを抱えている方がいるかもしれません。

 ウェビナーの中で、「Eコマース事業を成長させるためには、詰まるところ『商品』『情報』『集客』のいずれかを増やすしかない」みたいな話をしたんですね。たしか、「商品数が限られている場合のEコマースで気をつけるところは?」という質問におこたえしたときだったと思います。この回答に関して、こんな質問をいただきました。

 「『商品』『情報』『集客』のいずれかを増やすしかないという話がとても納得できました。Eコマースサイトの『利便性』という点はどう考えられているでしょうか?自社(弊社)では『利便性』に重きを置いていて、社内で『UI・UXの向上』を叫ばれているのですが、そこまで重要でしょうか。多少サイトが使いづらくても、欲しい商品ならお客様は買ってくれると思うのですが・・」

 こんな質問だったんですね。同じような悩みを抱えられている方もいるかもしれません。マーケティング界隈で「UI・UX」をテーマにした書籍やセミナーが多いので、「利便性」の重要性を感じているものの、ことEコマースの成長という視点でいうと「ん?そうなのか?」を感じられている方もいらっしゃるのではないでしょうか。ウェビナー内では少し過激な回答をしてしまったのですが、もう少しやわらかい回答をお伝えしたいと思います。

 まずEコマースサイトの「利便性」を向上させることは、野球やサッカーでいえば「失点を防ぐ」改善なんですね。お客様がEコマースサイトにアクセスしてくれ、商品に興味をもってくれたり、商品を買いやすくするために改善をほどこす。WEBマーケティングの言葉で「直帰率」や「離脱率」という言葉がありますが、「利便性の向上」はここに手を入れていることに近いわけです。ただ、いくら失点を防いだとしても「防御率0.00」なんですね。失点は防げても、得点しないことには勝てない。

 Eコマース事業において「商品」「情報」「集客」を強化していくことは、「得点」を増やしていくための改善活動です。失点をいくら頑張って防いでも「0.00」ですが、得点は「5点、10点」だけではなく「100点、1万点」にもなりえます。100点失点しても10,000点得点すれば良かったりするのです。なので、まず本丸として考えるべきは得点の稼ぎ方であって、失点を防ぐことは得点が伸びてきたら後追いで改善をしていけばいい。これが逆になってしまうと、さも「UI・UXの向上」をほどこせば売上が伸びるような錯覚に陥ってしまうわけですね。

 ちなみに、優先的に「UI・UXの向上」に取り組んだ方がよいEコマースサイトもあります。それはリアルで十分な認知があり、特に広告宣伝をしなくてもEコマースサイトにお客様が集まってきてくれるようなブランドです。これはリアルの販売で、商品のことも、ブランドの情報も、お客様自身がすでに知っているわけですから、「商品」「情報」「集客」の強化が必要ありません。こういったブランドは「UI・UXの向上」に最初から重きを置くとよいのですが、日本にこういったブランドってどれくらいあるのでしょうか。思いあたるところで、ユニクロさん、任天堂さんとかですかね。ほとんどの会社のEコマース事業については、やっぱり「商品」「情報」「集客」の強化をひたすら考えつづけるしかないのではないかと思いますよ。