秋から冬にかけて、都内のとある大学院生に向けて授業をすることになった。といっても、私に授業の依頼がきたわけではなく、私も参加している勉強会に授業の依頼がきて、私はメンバーのひとりというわけだ。いま、絶賛授業プラグラム作成中というところである。
*授業で伝えたいことはたくさんあるけれど
授業プログラム作成にあたって何度か会議が開催された。大学院の先生を交え、我々勉強会メンバーが数名、こんなプログラムはどうか、あんなプログラムはどうか、学生は盛り上がってくれるか、など喧々諤々と議論が繰り返されるわけである。
こういった時にはありがちのケースなのだろうが、自分たちが伝えたいことや教えたいことと、学生が知りたいことやりたいことが少しずつずれてくる。というか、そもそも学生が知りたいことやりたいことは先生伝いでもはっきりとは我々が理解できないので、どうしても自分たちが伝えたいことや自分たちが面白いと思うことに議論が偏ってくる。
また、伝えたいこと教えたいことがどんどんと追加されていく、会議を重ねるごとにボリュームが増えていき、そして内容も高度なものになっていく。もちろん、我々授業プログラム作成メンバーも「良かれ」と思ってやっていることなので、これはそういう意味でも良くない。学生にとって「わかりづらい」コンテンツになってしまっている可能性もある。
こういうときに思い出すことがある。
*人は回を追うごとにもっと良くしようと考えてしまう
以前、毎月1回の恒例としてECMJセミナーを開催していたときのことだ。まだ開催し始めてからそれほど時間が経っていない時期だったと記憶しているので5回目か6回目のセミナーだろうか。聴講してくれていたECMJの初代初代取締役の故・岩佐豊氏に言われた言葉だ。
雑誌は厚くなると売れなくなるんだよ。
ECMJセミナーの内容を充実させたいと思うため、初回のECMJセミナーから5回目・6回目のECMJセミナーにかけて、毎回パワーポイントの枚数が増えていた。初回は70枚だったものが5回目・6回目には100枚近くに増えていた。セミナーの時間は同じであるから、結果、ボリュームだけが増え「わかりづらい」内容になっていたわけだ。そこでこの言葉である。
もちろん自分としては「良かれ」と思ってやっていることであり、毎回セミナーを進歩させるためにやっていることである意識だったのだが、ECMJセミナーは初めての方にECMJのコンサルティングを知ってもらうためのセミナーである。岩佐さんが言うには「石田は真面目だから、回を追うごとにもっと良くしようと考えてしまい、その結果『わかりづらい』ものになってしまう」のだと。
そしてそれを表す決め手が「雑誌は厚くなると売れなくなるんだよ」だった。週刊ダイヤモンドも編集長をしていた岩佐さんならではの表現である。
*ボリュームは必ずしも良いものではない
コンテンツのボリュームの多さやコンテンツの内容の充実度は、必ずしもお客様(聴講者)にとって良いものではないということだ。ときに、本当に重要なことを「シンプルにひたすらわかりやすく」時間をかけて伝える方が価値があることがあるし、もしかしたらそちらの方が本質なのかもしれない。
今回の授業プログラムについては、「授業の詳細なスケジュールを立てる」ということで、我々は内容の飛躍に気づくことができた。それまで考えていた内容を授業(90分)のスケジュールに落とすと、どう考えても時間が足りないのだ。
「人は回を追うごとにもっと良くしようと考えてしまう」「雑誌は厚くなると売れなくなるんだよ」このふたつは今でも思い出す言葉である。実はこの後に続く言葉があり、「シンプルにわかりやすく、ひたすら『続ける』ことの方がもっと大切なんだよ」であった。