著者:石田 麻琴

「市場のペース」がわからないと「自分のペース」で満足する【no.1513】

 もう2年程前だろうか、それとも3年程前だろうか。ECMJコラムの中で箱根駅伝の中継で聞いた一節について書いたことがある。それは「後ろにいると、後ろのペースになる」という話だった。

 そう。駅伝は「後ろにいると、後ろのペース」になってしまうのだ。だから、序盤から高い順位で走らなければいけない。前のペースに合わせられる位置にいなくてはいけないのだ。

*復路になると、驚くほど差が広がっていく

 箱根駅伝をよくみている人ならわかると思う。東京から箱根に向かうのが往路、箱根から東京に戻ってくるのが復路、なのだが箱根駅伝二日目の復路になると先頭から各出場校の差が驚くほど広がっていくのだ。

 たとえば往路の3区。区間賞の東洋大学と区間最下位の東京国際大学の差は4分47秒である。往路の3区の真裏である8区は、区間賞の青山学院大学と区間最下位の上武大学の差は6分30秒である。たとえば往路の4区。区間賞の神奈川大学と区間最下位の上武大学の差は4分37秒である。往路の4区の真裏である9区は、区間賞の青山学院大学と区間最下位の上武大学の差は6分4秒になる。

 「後ろにいると、後ろのペースになる」これを知っている各校が往路に高い比重をかけ、復路の選手は若干弱くなっている。だからこそ「差が開きやすい」のは確かなのだが、復路の8区、9区ともなるとある程度順位も確定しているので「ポジションに合わせたペース」ができてしまっている部分もありそうだ。

*はっきり言えるのは、1区は最小差だということ

 箱根駅伝の全区間の中でもっとも各校の差がつかないのは何区なのかといえば、もちろん1区ということになる。今回の箱根駅伝だと1区区間賞の東洋大学と区間最下位の東京国際大学の差は1分39秒だった。1区の真裏の10区になると、区間賞と区間最下位の差は3分19秒になるのだが、ここの要旨ではないので参考までとする。

 そう。全10区の中で区間賞と区間最下位の差が最小差になるのは1区なのだ。オープン参加の関東学連選抜含め21チームが東京大手町から一斉によーいドン!をするわけだから1区が最小差になるのは当たり前のような気がするが、じゃあ1区で走った同じ選手たちが真裏の10区を走ったとしても区間賞と区間最下位との差は1分39秒にならないから不思議だ。

 つまり、多数の選手と競って走ったり、自分がトップでたすきを繋げばシンプルに区間賞をゲットできるという平等に与えられた(ように感じる)条件からくるモチベーションがこの最小差を生んでいるわけだ。

*改善は自分のペースではなく、市場のペースでするもの

 この現象がビジネスでも言えるのではないかと考えながらみていた。(なんでも仕事に絡めてしまってすいませんね)。「1区最小差現象」は、よーいドン!で全校が並んで走るという「市場のペース」が見えているからこそ起こることなのだろう。

 2区3区と駅伝が進むにしたがって、各校がばらけてくる。数十メートル先にひとつ前の選手がみえればまだいいが、前にも後ろにも他の選手がみえないという状況もしばしば起こる。こうなると「市場のペース」が肌感でわかりづらくなってくるわけだ。(後ろの運営管理車からチームスタッフが伝えるのだろうが)

 「市場のペース」がわからないと「自分のペース」をつくるようになっていく。そしてその「自分のペース」は往々にして「市場のペース」よりも遅れてしまっているのだ。まさに「後ろにいると、後ろのペースになる」である。

 箱根駅伝において「市場のペース」をつくれるとしたら、それは先頭で走ることなのではないだろうか。接近している2位、3位はまだしも「市場のペース」をつくることで中位以下の大学と圧倒的な差をつくることができる。やはりよーいドン!の1区は最重要区間なのだ。