(前回の続き)
オリンピックに出場して、さらにゴールドメダルまで取ってしまったとんでもない村田くんだが、そのプロデビュー戦がさらにすごかった。というか、その前のプロテストですらすごかった。プロテストは前日本チャンピオンを圧倒。プロデビュー戦は東洋太平洋チャンピオンを圧倒してKO勝ちである。デビュー戦がチャンピオンなんて聞いたことがない。しかも圧倒してのKO勝ち。
本人も後々言っていたことだが、ここで世間の期待値が一気に上がってしまったのが良くなかった。村田くん自身の悩みの原因にもなった。デビュー戦で東洋太平洋のチャンピオンを圧倒できるほど村田くんの実力が「アジアでは」抜けていた一方、逆にいえば「アジアの中量級」はデビュー戦で突破できるほどのレベルだったわけだ。そこから世界戦に進んでいくまでに埋めなければいけないピースが多かった。
軽量級ならば日本タイトルもしくは東洋太平洋タイトルを取るレベルになると世界ランキング入りすることが多い。ジムの大小にもよるが、プロモーション力の強いジムであればタイトル獲得後、インパクトの強い試合が5試合程度できれば世界戦への道が開かれる。私たち日本人のファンはこの流れが通常だと思ってしまっていたから、村田くんがめちゃくちゃ足踏みをしているように感じたのだ。実はこの4年間は当然の4年間だった。(5月の初挑戦はミドル級史上最短試合数でのタイトル戦だった。これでも早いのだ)
さて、先日のWBA世界ミドル級タイトル獲得によって村田くんはここまでバックアップをしてくれた電通・フジテレビへの最低限のノルマを果たしたことになるだろう。ここからはボーナスステージ。自分と帝拳ジムとアメリカのトップランクプロモーションによってその方向性が拓かれていく。きっとある種の肩の荷が下りたのではないだろうか。あとは自分のスタイルを徹底的に磨き上げるだけ。世界タイトルを一度獲得したことで、ミドル級戦線にも乗った。本質的にいえば、もう日本で活動する意味はないのだ。(電通とフジテレビに恩返しするだろうけどね)
お金の話をすれば、ボクシングは世界で一番稼げるスポーツである。一昨年のメイウェザーとパッキャオの試合のファイトマネーは合計で300億円以上。この試合だけでふたりは2015年のスポーツ選手長者番付のダントツのワンツーなのだ。たった1試合、36分だけで。昔、マイク・タイソンがマイケル・スピンクスとおこなった世界戦のファイトマネーが約22億円だったのだが、試合は91秒で終わってしまったのだ。時給換算しただけで恐ろしい。
歴史的なスーパースターと比較しても仕方がないが、先日のゲンナジー・ゴロフキンとサウル・アルバレスの試合のファイトマネーは合計10億円以上(もちろんスポンサー収入は別!)であるから、村田くんにも一攫千金の可能性がないわけでもない。興行収入の元になるのはPPVを中心としたテレビ放映になるので、ラスベガスで1戦、マカオで1戦、インパクトのある試合ができれば意外と早くビックマッチのオファーがやってくるかもしれない。
ちなみにいうと、テレビ放映の戦略は世界戦略だ。日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグの市場規模の差はテレビ放映を中心とした世界戦略でできた。ボクシングも同じく世界戦略を進行中なのだが、その標的になっているのがアジア。アジアは世界的に人口がめちゃくちゃ多いので、格好のマーケットなのだ。そしていまのところその中心地になっているのが、マカオ。(東京でなくて本当に残念。そういう意味でも早く日本にカジノができて欲しいと思う)
村田くんが最終的にどれくらい稼げるかも楽しみにしながら、力いっぱい応援しようじゃないか。そういえば昔村田くんの奥さんが「書いたことは現実になる」といって「プロになって一軒家が買えました。ありがとうございました」と書いて冷蔵庫に貼っていたのだが、アメリカのロサンゼルスに一軒家を買うこともすでに夢ではないわけだ。
おわり。