「ネット×リアル」なのか「リアル×ネット」なのか。いずれにせよ、ネットとリアルの関係性はこれかも深くなっていく。Eコマースの世界でいうと、数年前にトレンドワード化した「オムニチャネル戦略」。これは「リアルとネットの融合」に他ならなかった。
当時、オムニチャネル戦略がクローズアップされた理由が「セブンアンドアイグループのオムニチャネル戦略」だった。これでマーケティングの潮流のひとつだったオムニチャネルが突然トレンドワード化してしまった。そしてセブンアンドアイグループはオムニチャネル戦略を実装するのに1年を要し(ここはそれほど問題ない)、オムニチャネル戦略の産物である「オムニ7」はいまのところさほど話題にならず、さらに鈴木前社長の退任騒動などもあって、なんだかよくわからない感じになってしまった・・。
これが日本のオムニチャネル戦略の現状。「リアルとネットの融合」という点ではオムニチャネルはマーケティングの王道なのだが、トレンドワード化とセブンアンドアイの問題もあって、変な着色がついてしまった感は否めない。ただ、「リアルとネットの融合」は変えられないマーケティングのテーマである。
「リアルとネットの融合」のスタート地点は、「顧客データ」の統合にある。「顧客データ」とはご存知のとおり、お客様毎にユニークに振り分けられた「顧客ID」の集合体である。例えばインターネットで商品を購入するEコマースを利用する場合、基本的に「会員登録=顧客ID」が必要になる。これは商品の配送と決済を円滑に行うための情報になるだけではなく、顧客の購買行動やWEBサイトの閲覧データを分析する際にも役立てられる。インターネットの特性上、「顧客ID」を作る仕組みが出来上がっているわけだ。
ところがリアルの世界には「顧客ID」というものが存在しなかった。近所のコンビニエンスストアに行って会員証を提示することはなかったし、居酒屋に入っても運転免許証など身分証明書を確認されることはあったとしてもそれをコピーされたり、パソコンに登録されたりということはなかったわけだ。なので、リアルの世界では「顧客データ」は存在せず、POSレジを使って何が購入されたかを分析する「購買データ」だけは取得することができた。まあ数年前までの話だが。
ここに目を付けたのが「TSUTAYA」を経営しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)である。レンタルCD・レンタルビデオ(DVD)を利用する際には会員証を発行することが通例になっており、これがリアルの世界での「顧客ID」として活用できないか、と考えたわけだ。TSUTAYAのTカードはクレジットカード化され、利用に応じてポイントが付与されるサービスも一気に拡大をした。なぜなら、顧客の行動履歴データ・購買データはデータが厚ければ厚いほど、より精度の高いマーケティング分析が可能になるからだ。
Yahoo!とCCCが業務提携をしているのは多くのマーケッターが知るところだ。Yahoo!はYahoo! IDを保有している。日本のインターネットビジネスの中では楽天市場の楽天IDやAmazonのAmazonIDに匹敵するくらいの会員登録するがあるはずだ。このYahoo!IDとTカードのIDを「顧客ID」として連結することで何が起こるのか。顧客のリアルの購買行動のデータと、同じ顧客のネットの購買行動のデータを統合することができるのだ。リアルのデータがどうネットのデータに紐づいているかがわかり、ネットのデータがどうリアルに紐づいているかがわかる。
「リアルとネットの融合」のスタート地点は「顧客IDの統合」であり、ここを押さえなければ本質的な「リアル×ネット」のマーケティング戦略は実現できない。これからはセブンアンドアイのような大企業だけではなく、中小企業においても「リアル×ネット」が低コストで実現できる時代がやってくるはずだ。
つづく。