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ネットショップを効率的に運用するためのバックヤードシステムの話が続いている。小林はその話を冷ややかな目で見ていた。「これを知ったからといって、ウチの会社のインターネット活用にどんな影響があるだろうか・・」。周りを見回すと、他の聴講者は真剣な様子でバックヤードシステムの話を聞いている。
*小林のノートにはメモが残されていなかった
小林は昔からどこか冷めている子どもだった。中学校の部活の顧問の先生にも「もっとヤル気を出した方がいいんじゃない?」といわれたことがある。就職活動をしているときも面接官に「君からはあんまり情熱が感じられないねぇ」と皮肉っぽくいわれた。
ヤル気がないわけじゃない、情熱がないわけでもない。ただ単に、物事を冷静に見ているだけだ。好きなものは好きだし、好きなものには自分だって没頭する。ただ、顧問の先生にいい顔をするために高い目標を掲げたり、第一志望の会社でもないのに見せかけだけの情熱を出したりするのが嫌だっただけだ。
気づくとセミナーは終了に差し掛かっていた。メモを書くために小林が開いたノートには、何も文字が書かれていなかった―――。
*「今日、何をすればいいのか?」それが知りたい
あのセミナー以降、インターネット活用のいくつかのセミナーに小林は参加した。話を聞いていると、インターネット関連のセミナーにはだいたいのパターンがあることに気がついた。
ひとつは、システムやツールの営業セミナー。もちろん、セミナーのタイトルだけを読むとシステムやツールのセミナーには思えないのだが、動画をやりましょうだったり、ソーシャルメディアをやりましょうだったり、リスティング広告をやりましょうだったり、自社の提供しているシステムやツールの営業に繋げるためのセミナーが多いことがわかった。
もうひとつは、成功事例型のセミナー。Eコマースの事業者だったりWEBサービスの事業者だったりを呼んでこれまでの取り組みを話してもらうというもの。たしかに苦労話や成長のきかっけの話を聞くのは面白いし、参考にならないこともない。ただ、自分の会社とは業種も違うし、インターネットへの取り組み方も違う。自社がどうすればいいか?のイメージには繋がらなかった。
そして、勉強型のセミナー。これも参加してみた。実際にノートパソコンを持っていって、講師の方に教えてもらいながらHTMLだったりCSSのコーティングをおこなうというセミナーだ。具体的な実務に近い内容だったので、正直いうと一番自分の身になりそうな気はした。ただ、「自社の事業にとってインターネットをどう活用するか」それが最初にあって、それ以降にHTMLのスキルの必要性があるのでは?そう思うと自分の中に少し疑問が残った。
ウチの会社がインターネットを活用するとしたら、「今日、何をすればいいのか?」それが知りたい。あまたある仕組みや成功事例やスキルを、ウチの会社に繋げるには・・小林はそこに悩んでいた。
*小林は申し訳なさそうな声でいった
社長と約束した1か月はあっという間に過ぎた。結局、小林はBtoBの会社がインターネットを活用するための戦略のヒントを掴むことはできなかったが、この1か月間で参加したセミナーの内容と検討しなければいけない課題については資料にまとめていた。
「小林、1か月間、いろんな情報を仕入れていたみたいだな。どうだった。話を聞かせてくれ」
思っていたよりも社長の雰囲気は優しく、そして期待感に溢れているように感じられました。だから小林は恐縮し、申し訳なさそうな小さな声でいいました。
「たしかにこの1か月間かなり頑張って足を運んで、いろんな情報を仕入れてはみたんですが・・」
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