著者:石田 麻琴

「上手くいっているものはイジらない」が鉄則です。【no.1187】

 勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし―――。

 野村克也元監督がいった有名な言葉です。以前このコラムでも何回か登場しましたが、「不思議の負けなし」を伝えるために用いたことがほとんどでした。今回は、「勝ちに不思議の勝ちあり」についてです。

外側の人間が「理由のある勝ち」を仕立て上げる

 結果というのは、ほとんどの場合たまたまです。この「勝ち」に明確な理由をつけることはできません。たまたまの結果の中から、1%1%の理由を積み重ねていくのです。市場に参入するのが早かったから、インフルエンサーの方に商品を見つけてもらえたから、商品のサイズとカラーと形のバランスが絶妙で受け入れられやすかったから、どれも狙ってできることではありません。

 結果を出した本人はたまたまであることを十分にわかっています。たまたまの中から1%1%の理由を積み重ねていかなければいけないこともわかっています。100%の理由をつけようとするのは、成果の外側にいる人間です。外側にいる人間が「不思議の勝ち」を「理由のある勝ち」に仕立てようとしてきます。

 前職でネットショップの運営者を担当していました。いわゆるネットショップの店長です。2006年から2007年にかけて、担当していたネットショップの売上が大きく伸びた時期がありました。1年で月商が40倍にもなったのです。その間、前職の私の上司である社長は、私が求めたとき以外、自らの意見を出してきませんでした。その理由は、「上手くいっているものはイジらない」というセオリーからでした。

「上手くいっているもの」を最初にイジろうとする経営者

 原因があれば結果があります。結果はたまたまだとしても、どこかに原因があります。それがずっとわからないから困るのですが、どこかに確かにあります。そして、その原因と結果について、すべてを掴めていなかったとしても、24時間考え続けているのは「ネットショップの店長」なわけです。たとえ社長として「良い意見」であったとしても、全体のバランスのどこかを壊してしまう可能性があります。それがわからなければ、あくまで「上手くいっているものはイジらない」なのです。

 社員さん、従業員さん、アルバイトさん―――会社のスタッフが仕事で実績を出し始めると、「上手くいっているもの」を最初にイジろうとするのは、経営者です。経営者本人とすれば自分が関与することでより実績が伸びると思っているからこそ、意見を出してくるのですが、スタッフにとってはありがた迷惑でしかありません。たとえ、それが正しい意見だったとしてもです。結果に本当につながっている絶妙なバランスは24時間考えているスタッフしかつくれないのです。

潜んでいるバランスは外側の人間にはわかりえない

 「上手くいっているものはイジらない」が鉄則です。なぜなら、そこには外側の人間にはわかりえないバランスが潜んでいるからです。手を入れてしまう経営者は結果が出ている理由がわかっている気分になっていますが、本当はまったく気がついていない部分が結果に結びついている可能性もあるのです。上手くいっているならば、放っておくのが一番です。経営者が関与すると、パワーバランス上、スタッフはその意見を無視することができません。それが、バランスが崩れることに繋がっていきます。

 良かれと思っている気持ち、もっと実績を出させてあげようと思う気持ち、自分だったらもっと結果を出せると思う気持ちはわかります。しかし、上手くいっているならばその気持ちを押さえて、スタッフの側から相談をしてくるまでぐっと我慢です。相談をしてきたら、思いっきり力を貸してあげましょう。

 おわり。