著者:石田 麻琴

時間帯によって価格を変更するためには、顧客軸・市場軸のデータが必要になる【no.0876】

 Amazonが時間帯によって価格を変えているのはご存じの方も多いと思います。日本のAmazonが時間帯によって変わっているのかは微妙なところなのですが、アメリカのAmazonでは確実に変わっています。

 また、もしかしたらですが、個人のIDによって価格が変わるアルゴリズムも組み込まれているかもしれません。自分のIDでしか購入しないので、不確定ですが。ただ、Amazonのシステム力・マーケティング力を駆使すれば、ID毎での「価格の最適化」は簡単に可能です。

 まず言っておくと、私はこのシステムには賛成派です。反対派ではありません。というか、賛成も反対もないことだと思います。売上を最大化させ、なおかつ利益を最大化させるためには、機会ロスをできる限り無くし、「また今度にしよう」をできる限り無くす必要があるからです。

 で、今回書きたいのは、どのような理屈で「時間帯別の価格変更がおこなわれているか」そのアルゴリズムの概念です。

 この価格変更のアルゴリズムを設定するためには、大きく分けてふたつのデータが必要になります。ひとつはユーザの個人IDを軸としたデータ。もうひとつは、Amazon全ユーザによる市場を軸にしたデータです。つまり、個人の傾向、市場の傾向の両面から表示させる価格を最適化させるのですね。

 まずは個人IDを軸としたデータ分析です。これは個人の購買の傾向、購買に至るまでの行動の傾向の分析ということになります。

 商品名を直接検索して、そのまま購入ボタンを押すユーザもいます。2つ以上の商品を比較検討して、購入を決めるユーザもいます。商品を調べてから一度お気に入りに入れて、数日後にまた検討して購入ボタンを押すユーザもいます。また、昼間に商品を選んで、夜に商品を購入するユーザ。夜だけログインして、その日中に購入を決定するユーザ。昼でも夜でも、即買いをするユーザ。

 これらの購買行動は個人IDによって様々。データを分析することによって、どこで価格の決定打を出すかを決めていきます。もちろん、ユーザが即買いをする時間ならば、特段商品の値引きをしなくていいことになります。また、ユーザが「また今度でいいや」になる傾向が読み取れれば、セール価格を提示して購入ボタンを押してもらわなければいけないでしょう。

 しかし、上記と同じ理由で新規のユーザを分析しようとしても、そもそも分析するデータがありません。また、リピートを続けているユーザでも、これまでと違う商品を探し出したときは分析するデータがありません。さらに、ユーザは常に進化をしていますから、どこで個人ID毎のデータが使えなくなる日がやってきます。あくまでデータとは「過去のもの」です。そこで役に立つのが、市場を軸としたデータということになります。

 データの無い新規のユーザに関しては、Amazon全ユーザの平均的なアプローチから入っていくでしょう。データのあるリピートユーザの変化に関しては、全ユーザデータの中から購買行動の傾向が近いユーザを探し出し、同じレールの上を進んでいくことを想定したアプローチから入っていくはずです。

 そして、新規のユーザ、リピートユーザが新しい購買行動を起こすたびに、また新しいデータが新しい傾向としてAmazonのサーバに蓄積されていくわけですね。デジタルマーケティングとはデータベースマーケティングですから、いかに1%1%成果への確率を上げていけるか、という話になります。より多くのユーザ、より多くのサンプルを蓄積している会社ほど有利なわけです。

 おわり。