著者:石田 麻琴

ネットショップの急激な成長と人海戦術の危険性について【no.0382】

 実店舗を経営されている方は良くご存じかと思いますが、実店舗のビジネスは年3%~5%を積み重ねていくものです。実店舗のビジネスには商圏があります。お客様の絶対的な数が決まっています。店舗のスペースが決まっています。店舗の中に置くことができる商品の数が決まっていますし、店舗の中に入れるお客様の人数も決まっています。飲食店、レストランなどでは、テーブルと席数により、1日あたりの客数の上限が決まってきます。常時満員になるレストランならば、いかにして客単価を上げるかで年3%~5%を積み重ねていかなくてはいけません。もちろん、そんなに人気があるのなら2号店を出せばいいじゃないか、そうすれば年200%が実現できるじゃないか、という話もありますがね。

 さて、ネットショップではどうか、という話です。ネットショップには商圏がありません。日本中、世界中のお客様が対象になります。また、ショップのスペースも決まっていません。ネットショップには1,000商品でも10,000商品でも100,000商品でも掲載することができます。おまけに、ショップに入れるお客様も(サーバーが落ちない限り)無限大です。「あら、今日はこっちのお店のレジが混んでいるから、隣のスーパーで買いましょう」なんてことはないのです。したがって、年3%~5%の成長ではなく、年200%や300%、1,000%や10,000%の成長だってあり得るわけです。「成長のポイント」を掴むと、いきなりガッと売上が上がっていきます

 手前味噌の事例で申し訳ないのですが(クライアントの事例を書くよりは・・)、私自身、ネットショップの運営者時代に、売上7,000%アップを経験しています。「ネットショップ運営者時代の話」でも書きましたが、初月40万円の売上が1年後には2,800万円になりました。実店舗ではこんな伸びはありえません。これが、ネットショップの威力でもあるでしょう。出店したタイミングや、力を入れ始めたタイミング、人付き合いや情報など、「運」の要素も多分にあったと思います。

 このようにネットショップの成長は、いきなりガッときます。そして、加速的に成長をしていきます。ネットショップを運営していたとき、月商40万円から月商1,000万円までにかかった時間は9ヶ月でした。しかし、月商1,000万円から月商2,000万円到達までにかかった時間は、たった2ヶ月です。これは極端な例かもしれませんが、インターネットでは本当にこういう成長があり得ます。

 そんなときに怖いのが、人海戦術です

 月商1,000万円から月商2,000万円になると、売上2倍は当然のこと、理論上、物量も2倍、必要在庫数も2倍、メール数も2倍になります。ある程度の期間をかけて、2倍の成長を実現するときは、バックヤードの仕組みも着実に成長させ対応することができるのですが、2ヶ月ほどの短期間で2倍の成長が実現するとなると、最適な仕組みで成長をカバーしていくのが難しくなります。そうなると、どうなるか。人を増やして、人海戦術で成長に対応することになります。

 特に、急激な成長によってしわ寄せがくるのはバックヤード業務です。システム・DB(データベース)、物流、カスタマーサポートの仕事に多くの負荷がかかり、なんとか人海戦術で乗り切ろうという話になりがちです。今を乗り切らなければ次は無いので仕方がありません。しかし怖いのは、どこかでネットショップの成長が止まり、売上が下振れするようになると、バックヤードの人員が過剰になってしまうことです。インターネット広告によるレバレッジを利かせた戦略を中心に展開したときに、広告の費用対効果が悪くなった結果として起こりやすい現象です。

 ネットショップの「成長ポイント」を見つけるまでに、負荷が大きいのはフロントヤードの仕事です。売上が無ければ業務が発生しないバックヤードは、どうしても改善が後追いになります。しかし、一旦「成長ポイント」を掴むと、一気にバックヤードに反動がきます。競合他店に差をつけるために、フロントヤードも広告戦略等でさらに加速をつけるので、相当なビックウェーブが跳ね返ってきます。売上が小さい、物量が少ないうちから、バックヤードの担当者はマニュアル化、仕組化を進めておいてください。成功しているネットショップの担当者に「成長期」の苦難を聞くのも良いと思います。

 人海戦術は、後々、組織の上でも大きな問題を生む可能性があります。そちらは、また次回、触れていきます。

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