著者:石田 麻琴

おにぎり水産のネットショップの方向性が決まる。【no.0276】

 ネットショップあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら

 いつもよりも、少し食い気味に話を聞こうとする猪井氏(いいし)先生に、鬼切社長は少し戸惑いました。

「だから・・」(猪井氏先生のつぶやき)

「だから、『ネットショップの』という考え方はやめて、『おにぎり水産の』お客様を考えることにしたんです。実店舗でお客様と会話をしていて、観光ツアーで笹かまぼこ工場を訪れてくれたり、『笹かまオニギリ』でお土産を買って帰ってくれたりする方が、なんとなくわかりましたから」

「それで、具体的には・・」(猪井氏先生のつぶやき)

「具体的にはー。お客様のことですよね?」

「そうじゃ、どんなお客様が来られたか、ということじゃ」

「そうですね。この10日間に接客をしたお客様で一番印象に残っているのは、東京から観光ツアーで笹かまぼこ工場に来られた夫婦です。どうやら、おにぎり水産の工場見学に来られたのが2回目らしくて。工場の設備が新しくなったことを知ってらっしゃって、それで、笹かまぼこがどのくらい美味しくなったのかを楽しみに来られたみたいなんですよ。こんな遠くの工場見学にわざわざ2回も来てくれるなんて、少しビックリしてしまって」

 猪井氏先生はウンウンと頷きながら聞いています。

「それで・・」(猪井氏先生のつぶやき)

「それで、実は、5年前、最初にこの工場に来た理由は、隣町のワイナリーにいく観光ツアーがいっぱいだったからみたいなんですよ。正直、あまり笹かまぼこの工場には興味がなかったようなんですが、時間が空いていたし、ホテルから近かったのもあって参加したみたいなんですよね。ほとんど笹かまぼこも食べたことがなかったみたいなんですが、工場見学で配っているできたてアツアツの笹かまぼこを食べたら、えらく感動してしまったらしくて。その思い出があって、また2回目、来られたようなんです」

「おおー。ええ話じゃないか。で、その夫婦は、ネットショップの存在は知っとったの?」

「それが、知らなかったんです。工場見学が終わって、実店舗でお土産を買われているときに話したんですけどね。『えー、そんなんあったの?』みたいな感じで。お土産の笹かまぼこ、いっぱい抱えていて、『だったらここで全部買わなくても良かったんだ』って。最後はハハハって笑ったんですけど。けっこう、レジに立っているときにも、ネットショップをやっているのを知っていますか?って話を何人かにしたんですね。そうしたら、残念なことに、誰も知らなかったですね・・

 猪井氏先生はウンウンと頷くと、パチっと目を見開きました。

「鬼切はん、決まったで」

「え?何がですか?」

「おにぎり水産のネットショップの方向性じゃ。まずは、おにぎり水産の工場見学に来たお客さん、実店舗の『笹かまオニギリ』を利用してくれたお客さんが自宅に帰って、もう一度笹かまぼこが食べたくなったときに来てもらえるネットショップを目指さんか?」

「え、そんなんでいいんですか。おにぎり水産の工場見学に来るようなお客様や『笹かまオニギリ』を利用するようなお客様を、インターネット上から新しいお客様として集めるとか、そういうことをやったほうが・・」

「鬼切はん、そんなんは後じゃ後。『利用してもらったお客さんが一番のお客さん』ゆう言葉を知らんのか。おにぎり水産のことを全く知らないお客さんをインターネットから集めてくるよりも、一度でもおにぎり水産に触れたことのあるお客さんに買ってもらう方が、はるかに重要じゃ。そりゃ、小さな一歩じゃけど、大切な一歩になると思うわ」

 「は、はぁ・・」。鬼切社長は、そんなんでいいのかな、と思いました。

「鬼切はん、インターネットだけで商売している連中は、自分達のサービスや商品を知ってもらうのにめちゃくちゃ苦労しとる。バーチャルな世界だからな。信用してもらうのが大変なんじゃ。でも、おにぎり水産の場合は、リアルの現場にお客さんから信用してもらう場所があるわけじゃろう。これを有効活用しない手はないで。1歩1歩着実にできるようにしてこうじゃないか。1できない人間が、いきなり10はできへんで

 鬼切社長は頷きました。

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