著者:石田 麻琴

マーケターは「新しいモノ」にとりあえず乗っておく【no.2061】

 マーケターとして「新しいモノ」にとりあえず乗っておくことが大切になる。「新しいモノ」はその行く先はわからない。ただ、拡がれば大きなリターンがある。逆に拡がらなかったとしても「一目」を置いてもらうことはできる。

「新しい広告は買い」の教え

 もう15年近く前、まだ私がネットショップの運営者をしていたときのこと。前職の社長(唯一の上司)が教えてくれたのは「新しい広告は買い」ということだった。

 当時、一番伸びていたショッピングモールは楽天市場だった。その成長過程の中で、ショッピングモールの中に新しい広告枠が続々とできていた。楽天市場のショッピングモールとしての収益モデルの中心は「出店料」「ロイヤルティ」「広告」の3つになる。現状は「カード」「物流」など他の収益モデルもあるが、「広告」は当時から柱のひとつだ。

 「新しい広告は買い」は、楽天市場内に出現する新しい広告枠は「有無を言わずに」買うということだ。当然ながら新しい広告であるから「実績」がない。どのような成果が出るかの履歴がない。それはネットショップ側だけではなく、ショッピングモール側も一緒になる。では、なぜ「新しい広告は買い」なのか。

どちらに転んでもあまり損はしない

 ひとつには新しい広告枠は「弱気」の価格設定になっていることが多い。実績のない、成果の見えない広告をネットショップ側に売るわけであるから、ショッピングモールとして「強気」の価格設定にするわけにはいかない。想定の成果データはあれど、実際にお客様がどう動くかはわからない。初回のリスクをネットショップが持つと考えれば、価格設定が「弱気」になるのは自然な流れだ。

 もうひとつ。仮に新しい広告を買って大外しをした場合でも、結果的に悪いことだけではない。まず、あまりに成果が良くない場合はその後何らかのカタチでショッピングモール側がフォローをしてくれる可能性がある。ショッピングモール側としても「新しい広告は取れない(売れない)」という噂が広がると信用上困るわけだ。また、少なくとも「この新しい広告は現状取れない」という経験値は自社だけが持てる。いわば、リスクは「広告予算分のみ」なのである。

 前職の社長のこの考え方を踏襲して、その後伸び始めたYahoo!ショッピングでバシバシ新しい広告で当てさせてもらいました。

したたかに「全振り」はしないこと

 いまではECでもマーケティングの主流になっているSNS。Facebook、Twitter、Instagram、TikTok・・。そしてYouTube。「とりあえず興味本位でのってみた」先行者が大きな利益を享受しているのは明白です。2014年に「好きなことで生きていく」というCMをYouTubeが打った際、「んなわけないだろ」と思った人が多いと思う。私も懐疑的だったひとり。今では大きな市場のひとつになり、競争も激化している。

 ただ、パッと思い出せないけれど結局「拡がらなかった」新しいモノもある。ヒットしない可能性もあるわけだけれど、「新しいモノを知っている」「新しいモノを取り入れている」ことは「その時点」では大きなウリになるハズなのだ。なので、マーケターが「新しいモノ」にとりあえず乗っておくことは、どちらに転んでも実はマイナスはあまりない。

 もうひとつ大切なことがあるとすれば、したたかに「新しいモノ」に全振りしないこと。拡がるか拡がらないか、あまり見えない段階で自分や自社のブランドを全振りしてしまうと、トレンドと共にブランドが終わることになってしまう。ここはしたたかに。新しいモノにとりあえず乗っておきつつ浸かりすぎずに。

 現実のところ、「新しいモノ」がキャズムを超えマス化するのは「思った以上に後」になる。浸かりすぎずゆる~く、とりあえず乗っておくことがポイントだ。