ネットショップの担当者の人材育成について考えていきます。
*ネットショップの担当者は「新規採用」できるのか
経営者の方からご相談いただくのが「ネットショップの担当者は採用できるか」です。「ネットショップを頑張りたいんだけど、いい人いないかな~」という感じですね。
ネットショップのシステムを触ってもらう。受注管理と物流とカスタマーサポートのバックオフィス業務をやってもらう。こういった「パソコンを使える人」ならば採用が可能かと思います。しかし、EC事業をけん引してくれる「事業責任者/ネットショップ店長/チームリーダー」を採用市場から求めるのは難しいです。
*なぜ「ネットショップ店長」を求められないか
採用の市場から「ネットショップ店長」を求めることがなぜ難しいか。店長レベルでネットショップ運営を回していた人材が単純に少ないからです。
大企業のネットショップは基本的に運営というより運用です。外部の力を借りながら、いかにして仕組み的にネットショップを回していくか。セキュリティやサーバー管理など、「いかにトラブルをおこさないか」が重要です。売上を「0→1」にする、「1→100」にするという部分に向いている人財ではありません。大企業のEC経験者は中小企業のEC運営に適しません。
対して中小企業のネットショップを経験した人材です。こちらは運用というより運営です。バックオフィスの仕事よりフロントヤードの仕事がメインです。人材は拡大に合わせての仕組み化や外注化を経験しています。「ネットショップ店長」という人財の要件を満たしているわけです。
*中小企業の「ネットショップ店長」のほとんどは経営陣
しかし「0→1」「1→100」が実践できる「ネットショップ店長」のほとんどが経営陣です。ほぼ個人からEコマース事業をスタートさせている会社もあります。現社長の二代目がEコマース事業を進めている会社もあります。はたして経営陣が採用の市場に出るのかというと、あまり考えられないですよね。
中小企業のEコマース事業でも年商が5億円、10億円と成長すれば複数の「ネットショップ店長」が存在します。年商3億円で2-3人、年商20億円ならば「店長」が10人以上いる可能性もあります。しかし、逆に陣頭指揮をとっているのが経営陣のひとりという会社もあります。
*中小企業で年商20億円のネットショップはどれくらいあるか
では中小企業で年商20億円をこえているネットショップはどれくらいあるのか。年商20億円ということは、月商が2億円弱ということです。たとえば楽天市場で月商1億円以上のネットショップは約160店舗です。当然、大手企業が出店しているネットショップも含まれます。
また年商20億円を達成しているネットショップはショッピングモールよりも自社サイトに多いと思われます。しかし、自社サイトで年商20億円が達成できるサイトのほとんどは「リアルでブランド力がある会社」です。中小企業でかつ自社サイトで年商20億円はかなりのレアケースになります。
*採用の市場に「ネットショップ店長」がいたとしても・・
「ネットショップ店長」あまりいないだろうな、というのが伝わったかと思います。ただ仮に「ネットショップ店長」が採用市場にいた場合です。次の問題は「ネットショップ店長」をやっていた人材が、そもそもECの土台のない中小事業会社に入社してくれるのか、ということです。すいません。でも本質的な課題なのです。
できることならブランド力のあるECの立ち上げに参画しようとするでしょう。IPOやバイアウトを狙うことができるベンチャーへの転職かもしれません。逆転可能なメリットがあればまだしも、「ネットショップ店長」の採用は難しそうです。
*会社の理念や想い、商品の特徴やこだわりを知っているのは?
そう考えると、やはり採用より育成となります。社内の人材で、ということです。なぜ自社のスタッフの中からネットショップの担当者を選ぶのが良いか。会社の理念や想い、商品の特徴を一番知っているのが自社スタッフだからです。EC事業に参入するために採用した人財では、追いつくことができない知識です。
ネットの知識・マーケティングを知っていればECの売上が上がるわけではありません。SEO対策の知識があればどんな商品でもネットショップで売れる。デザイン性のあるWEBサイトがつくれればネットショップの商品が売れる。そんなわけではないのです。
「買いたい人」よりも「売りたい人」の方が多い時代です。「尖り」「違い」「差別性」を徹底的にアピールしなければいけません。この「尖り」「違い」「差別性」をアピールするための原資。それが「会社の理念や想い」「商品の特徴やこだわり」なのです。
*中途半端なネットの知識で挑むとどうなるか
それでも「やっぱりネットの知識がある人の方が・・」と思う気持ちも理解できます。やはりWEBサイトの制作にはコーディングのスキルが多少なりとも必要になります。フォトショップやイラストレーターが使えればデザイン性をアップできます。専門的な知識が「あった方が良い」ことは確かです。
ただし、専門的な知識が偏っていると、戦略が偏ります。WEB制作の会社での経験があるデザイナーはWEBサイトの見せ方に戦略が偏ります。広告代理店の会社で経験があるマーケターはインターネット広告の活用に戦略が偏ります。ITの会社で経験があるエンジニアであればシステムに戦略が偏ります。ここはあくまで可能性の話です。
できるだけ早く大きな成果を残したいわけです。自分の得意分野に活路を求めるのは悪いことではありません。ただ、手段と目的が入れ替わるのは良くないこと。「会社の理念や想い」「商品の特徴やこだわり」という強い軸を持った上で、WEB制作や集客戦略やシステム活用の取捨選択することが理想です。
*最初は「兼務」でも、いずれは「専任」を目指す。そのために・・
ネットショップを始めた時点で売上が入ってくるEC。それはリアルの世界でもブランド認知があるごく一部のWEBサイトだけです。「どうやったらお客様がアクセスしてくれるのか」。「どんな商品を出したらお客様が購入してくれるのか」。「どんな見せ方をしたらお客様に興味をもってもらえるのか」。これをほとんどの会社は考え続けることになります。
ですから、スタート時点のネットショップは本当の「ゼロ」です。何もありません。そして困ったことにこの状態がしばらく続きます。ネットショップの担当者はこの時期に耐えなければいけません。それでも改善を続けなければいけません。EC運営・運用と他の業務を「兼務」するのも売上が立たないうちは仕方ないことです。ただ、いずれは「専任」を目指しましょう。
少なくとも売上目標は設定すること。「兼務」で目標がなければやらなくなります。そして、経営者さんは全社に「Eコマースに本気で取り組む」を宣言されてください。蔭でコソコソやらないように。
*コツコツ毎日続けていくことが得意な人
ネットショップの仕事は毎日コツコツ続けていくことが肝心です。ECMJツール「実行数値管理表」も毎日コツコツを続けるための道具です。EC担当者も「毎日コツコツ」続けられる人がポイントになります。
EC戦略というとネット広告などの大味な打ち手を思い浮かべるかもしれません。「たった数か月でこれだけ売上が伸びた!」。こんな事例を思い浮かべるかもしれません。このほとんどが特別なパターンです。ほとんどの会社はコツコツ「売上が伸びるポイント」まで改善し続けなければいけません。
比較的気長な人がネットショップの担当は向いているのかもしれません。せっかちな人、すぐ結果を求める人は、余計なネット広告に手を出さないか注意です。
*数字をみることに抵抗がない人
数字が「得意」だと言い切れる人は多くないと思います。むしろ「苦手なんだよね・・」という人の方が多いかもしれません。数字が好きではなくても、「抵抗がない」程度であれば問題ありません。「苦手だと思っていたら、意外と数字を見るのが楽しかった」という人もいます。まずは先入観をなくすことです。
前述の「実行数値管理表」の作成&運用でもそうですし、「商品別販売実績管理表」の作成&運用でもそう。ネットショップの運営には「データ分析」がずっと付きまといます。なぜならネットのマーケティング自体が「データをとって、毎日カイゼン」だからです。
ネットショップのマーケティングもデータをみることで成功に近づきます。「実行数値管理表」は特にシンプルなツールです。「実行数値管理表」を作成から始めれば数字に抵抗がなくなるでしょう。
*好奇心が強い人。「まずはやってみよう」と思える人
ネットショップのマーケティングの考え方は「『なんで売上が上がったか』がわかれば、『どうすれば売上が上がるか』がわかる」です。主観的に「やること」を悩んではいけません。選択肢があるなら「まずはやって」みて客観的な「反応(=データ)」を得るのです。そこから次の仮説を探していきます。
「やること」でウンウン迷いがちな人はEC運営には向いていないかもしれません。当然ながら、「やること」に正解はありません。「正解なのでは」という仮説があっても「正解」ではないのです。「まずはやってみよう」と割り切れる人。「やってみたい」と思う好奇心の強い人。こういった人材がネットショップの担当者向きかもしれません。
ただし「まずはやってみよう」と思える人は多くはありません。どうしても結果が出なかったときの不安が先にきてしまうからです。この場合、考え方やメンタルの置き方を変える必要があります。「やってみて『数字を』確かめてみよう」と思うようにするのです。インターネットのマーケティング自体が「シミュレーション」なのだと伝えてださい。とにかくたくさんボールを投げることです。
*「実行数値管理表」がすべての軸になる。ここは妥協なし
ECのマーケティングにおいて「実行数値管理表」は優先する必須項目です。なんら難しいことではありません。毎朝、前日のデータを「実行数値管理表」に入力すること。そして前日おこなった施策と改善、起こったことを書き残せばよいのです。
作業自体は難しいことではないのですが、難しいのは継続することです。どうしても慣れていないことは三日坊主で終わってしまいます。上司の方は「実行数値管理表」作成のフォローからスタートしましょう。端的にいえば、チェック・確認です。「今日はやった?」このひと言をかけるだけで大丈夫です。
*気になる数字について優しく質問をする
数字の部分を埋めることはECのシステムにアクセスするだけなので簡単です。数字が埋まっているか埋まっていないかは「やったか、やらなかったか」だけです。問題は「改善/施策」「理由/特筆事項」の部分です。最初はなかなかこの部分を埋めることができません。数字だけが入っていて、右側がスカスカな状態が続くと思います。
上司の方はフォローをしてあげてください。「この数字、いつもよりも高いんだけど何でだと思う?」。「この日何やったか覚えてる?」。「この日は客単価が高いから注文履歴を調べてみようよ」。気になる数字について優しく質問をしてください。最初のうちは数字の動きに気づくだけでいっぱいだと思います。
*アイデアを引き出す。意見を出してもらう
数字を埋めること、「改善/施策」「理由/特筆事項」を引き出すこと。これができたら、次はアイデアを引き出すこと、意見を出してもらうことです。どの仕事が売上につながっていそうか(つながっているか)の仮説を立ててもらいます。
ここも最初のうちはサポートが必要です。「実行数値管理表を見ての仮説は何ですか?」。これは難しいと思います。「新規のアクセス数を増やすためにできることは?」と具体的に聞いてみましょう。
*競合のネットショップを設定し、比較を施策につなげる
アイデアを引き出す、意見を出してもらうために有効策。それが「競合のネットショップ」を設定することです。「競合のネットショップ」は上司の方が探したショップで構いません。ネットショップの担当者への問いかけは「ここのショップ(競合のネットショップ)と自社のネットショップの違いは何かな?」です。
ネットショップは物真似からスタートして構いません。月商数千万円のネットショップでも競合のネットショップのことは見ています。表現方法を参考にしています。恥ずかしいことではありません。ECはお客様にとっても、ショップにとっても、他店と比較できることが利点なのです。そこを活かしていきましょう。完全な自己流は後です。
*スキルは後からつける。必要に迫られてからつける
「自社ネットショップと競合ネットショップの比較」。これをおこなうと、具体的な改善ポイントが見えてきます。サービス上のちょっとした工夫。検索キーワードの入れ方。商品ページの陳列順。手間をかければ改善ができるものもあれば、スキルが必要なこともあります。
たとえば商品画像の撮影。「なんでこのショップはこんなに写真がきれいなんだろう?」。こんな疑問が湧くでしょう。たとえばWEBサイトのデザインとレイアウト。「このデザインはソフトが使えないと実現できないな」。「このレイアウトはHTMLが触れないと・・」。このようにスキルの必要に迫られます。
実現したいネットショップ像があり、それがイメージできてから足りないスキルを補う。どうやって補えるかを考える。それで充分です。最初からスキルの勉強をする必要はありません。勉強するスキルと実践で使うスキルは学ぶスキルとは別物です。
*施策の順番はネットショップ担当者自身に選んでもらう
ネットショップの売上につながる道はけっして一本道ではありません。商品登録を頑張ることも、商品画像を強化することも、インターネット広告の改善もネットショップの売上につながります。なので、上司の方から「これをやりなさい」と指示する必要はありません。大切なのは結果につなげることです。
数あるアイデアが出た中で何をやるのか?それはネットショップの担当者自身に決めてもらってください。自分で決めると、得意なことを選びます。選んだことなのだから、本気でやります。自分で選んで、本気にならないと「本当の成果」は出ません。具体策が成果につながるものなのか否かが正当に判断できないのです。
*大切なのは数字を取ること。スケジューリングとタスク管理
施策はネットショップの担当者がやりたいものから進めて良いです。ただし、大切なのは、必ず実践したEC業務を「数字で評価」する時間をつくることです。週次・月次の振り返りはきちんとおこなうようにしましょう。担当者自身が「自分の選択・判断は成果につながったのか」振り返ることが肝心です。
もうひとつ。上司の仕事はスケジューリングとタスク管理です。「やりたい仕事は自分で選ぶ」。そういっても、週に1商品を登録するとか週に画像1枚を更新するとかでは市場の流れから遅れていってしまいます。「売上に効いている仕事、効いていない仕事」。「市場の流れと自社のペース」。これを見極めて、スケジューリングとタスク管理が円滑に進むためのペースメーカーを担ってください。
*Eコマース事業の成長と人財の成長は両立する
最後です。「Eコマースのマーケティングの考え方×自主性×スケジューリングとタスク管理」。これによってネットショップの売上は成長し、なおかつ担当者自身もビジネスマンとして成長します。間違いありません。
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