著者:石田 麻琴

配送料金だけで、年間3,000万円。送料無料はダメだ。【no.0326】

 ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら

「まあ、明日、300セットを発送しなくてはいけないわけではないですから・・」

 鬼切社長が一瞬憂鬱そうな顔をしたのを二子(にこ)社長は見逃さず、やさしく声をかけました。

*毎回送料無料にしていたら、利益が残らない!

「というか、鬼切社長、すいません。ここでの説明は1日300セット発送するというところじゃないですね。すいません。1,000円の笹かまぼこセットだと、年間に10万セット送ることになると、そういうことですね」

「膨大な数ですね」

「そうですね。膨大な数です。で、その10万セットを発送するのに、1セットあたりの配送料金が300円だったとすると・・」

「300円かける10万セットで・・3,000万円ですか!配送料金だけで3,000万円ですか!

「鬼切社長、そうなんですよ。目標が年商1億円、利益2,000万円。そして商品の原価率が35%。合計して55%。目標を達成するためには、45%で他の経費をまかなわなくてはならないわけです。もし、笹かまぼこ5枚セットを送料無料で売ってしまうと・・」

「いきなり3,000万円、つまり30%を使うことになってしまうわけか!」

「そうなってしまうわけです。もちろん、45%に含めなければいけない経費は配送料金だけではありません。まだまだご説明したいものがあります」

 鬼切社長は唖然としました。唖然としたのは当たり前です。なぜなら、以前、ショッピングモールで母の日や父の日の広告をかけたときに、実際に笹かまぼこ5枚セット980円を送料無料で売っていたからです。ショッピングモールの担当者からは、「新規のお客様を獲得するため」と言われていましたが、これじゃあ全くもって利益が残らないことに気が付きました。なぜなら、配送料金はお客様が購入してくれる毎にかかるものだからです。

「いくら新しいお客様が増えるからっていっても、毎回送料無料にしていちゃ、そもそも全然ダメじゃないか!

 鬼切社長は思ったことをそのまま口に出していました。その姿をみて、二子社長は少しビックリしていましたが。

「ままままま、まあ、まあ、鬼切社長、落ち着いて。まあ、そういうことなんですよ。だから、いまこうやって説明をして、年商1億円、利益2,000万円を実現できるよう考えようということですからね。落ち着いて、落ち着いて」

 二子社長が鬼切社長をなだめます。鬼切社長は、「そもそもダメじゃないか。そもそも全然ダメじゃないか」と、まだ怒っています。「一旦、クールダウンしますか」ということで、二子社長は追加のビールを2杯、頼みました。店員さんには、「キンキンに冷えたジョッキでお願いね」と注文を加えて。

*パートさん、アルバイトさんに発送をお願いするとして・・

「鬼切社長、いいですか。で、ですよ。配送料金についてはそんな感じですね。次に、物流に関わる人件費です。先ほどの年間10万セットを例に出して考えたいと思いますが、年間10万セットを発送するとなると、1日に何セット発送することになるんでしたっけ?」

「確か、休みなどもあるので、だいたい1日300セットくらいという話でしたね」

「そうですね。300セットでした。では、その300セットですが、おにぎり水産さんのパートさん、アルバイトさんに発送をお願いしたら、どれくらいで終わりますかね。そんな話です」

「なるほど、そういうことですね。ちょっとわからないですねー。以前、大量に注文がきたときは、スタッフみんなでスクランブルで発送をしたので、どのくらいの時間がかかったかは計算していませんでした」

「そうですか。これからしっかりとネットショップを運営していくなら、管理する体制をつくった方がいいところですね。もし仮に、1人のパートさんが、1時間で20セットの発送ができるとすれば、300セットだと15時間かかります。実際には、3人で5時間の作業をするなどという感じになると思うんですが、パートさんの時給が1,000円とすれば、1日あたり15,000円の人件費がかかるということですね」

「はい。そうですね」

「はい。年間にすると約500万円、年商1億円における5%です」

「なんか、配送料金よりは随分優しい感じがしますね」

「そうですかね。どうでしょうか。あくまで3分で1セットを発送する仕組みが整う前提でもありますし」

 鬼切社長には、二子社長が不敵な笑みを浮かべたように見えました。

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3 コメント

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