人海戦術のリスクは、EC事業の成長が止まったときに露見します。(前回はこちら)
前回のコラムで、EC事業は「成長のポイント」を掴むと急激に成長すると解説しました。
実店舗のビジネスは前年比3%や5%の成長を堅実に積み重ねていくことが重要です。それに対してECビジネスは200%や300%の成長が当たり前に起こります。実際、私はオンラインショップの運営者時代に、前年対比7,000%の成長を経験しています。ECMJのクライアントさんにも昨対比200%成長、300%成長という事業者さんがおられます。
人海戦術は、EC事業の成長に組織の成長が追いつかないから
売上が伸びるのは嬉しいことですが、このような状態のときに起こる問題があります。それは事業の成長に対して、組織の成長が追いつかないという問題です。
客単価が倍になって売上が倍になれば良いのですが、実際に倍になるのは「物量」です。お客様からの注文数が倍になり、受注メールが倍になります。そして発送数が倍になり、在庫数が倍になり、問い合わせ数が倍になります。組織が未成長ならば、現場が混乱しクレームが3倍、4倍になることもあります。組織の未成長をカバーするために、「人海戦術」の選択肢を選ばざるをえないわけです。目先の課題をカバーしなくてはいけないのですから当然です。
人海戦術のリスクは、EC事業が成長している段階では気づきません。EC事業の成長が止まったときに初めて気づきます。いままで売れていた商品が売れなくなる。広告の費用対効果が悪くなる。市場に同様の商品が出回り、価格競争が始まる。ECビジネスは、売上が倍になる可能性もあれば、2分の1になる可能性もあります。しかも、それが拡大成長と同じスピードで縮小するのが恐ろしいところです。人海戦術を行うと、市場環境の変化でアッという間に固定費率が超過してしまいます。
パッチワーク式に採用した「人海戦術的」人材は成長が止まると危ない
市場のリスクとともに、組織のリスクも注意しておかなければいけません。
事業の成長に合わせた「人海戦術」採用はどうしても「人材」になってしまいます。組織の成長上「物流がパンクしているから」「在庫管理が混乱しているから」「とりあえずクレーム電話を受けてくれる人を」とパッチワーク式に採用した人材です。理想とする事業成長や組織から逆算して集められたメンバーではありません。その人材がEC事業の成長が止まったときの足枷になる場合があります。
継続してEC事業を成長させるためには、「制作だけ」「物流だけ」といった専門スタッフの集まりは厳しくなります。EC事業の一連の業務を知り、「データをとって、毎日カイゼン」できる人材。その人材の集まり筋肉質の組織を実現することができるのです。最低でもフロントヤードの仕事とバックオフィスの仕事のどちらかは完全に担当できるようにしたいところです。
ディフェンダー「しか」できない人材はいずれ必要なくなる
フォワードができて、ミッドフィルダーもできる。ミッドフィルダーができて、ディフェンダーもできる人材です。一時的にディフェンダーが必要でも、それだけしかできない人材は起用が難しくなります。人海戦術では目先の「ディフェンダーさえやってくればいい」スタッフを採用しがちです。しかし市場環境の変化や組織の長期的な成長から逆算した選定をすることが重要です。もし「とにかくすぐに必要」ならば、素直にアウトソーシングを頼る手があります。何でも自社で担当を抱えると、後が大変です。
【合わせて読みたい】
売るためにアウトソーシングする。仕組み化のためにアウトソーシングする【no.1416】
人海戦術の発想を捨て、「早く仕事を終える」社会を肯定する(サイボウズ式さん)