ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら)
二子(にこ)社長との長時間のミーティング(しかも居酒屋)で疲れきった鬼切社長は、家に帰るなりスーツ姿のままベッドに転がりました。そして、いつの間にか眠ってしまいました。目が覚めると、時計は9時を指していました。鬼切社長は始めて、おにぎり水産の始業時間に遅刻をしてしまいました。
「申し訳ない。申し訳ない」。いつもは遅刻した社員を叱っているので、バツが悪い思いをして、おにぎり水産の事務所に入りました。事務所から社長室へ向かう途中で、鬼切社長は事務の静子さんに呼び止められました。鬼切社長は、何か注意を受けるのかと、一瞬ドキッとしました。
「鬼切社長、先ほど、猪井氏(いいし)先生から電話がきましたよ。急ぎの用事ではなかったようで、電話があったことだけを伝えて欲しい、と」
猪井氏先生との打ち合わせは来週のはずだし何だろうなぁ、と鬼切社長は思い、電話をかけてみることにしました。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、プチッ
「猪井氏先生、おはようございます。鬼切です。先ほどお電話をいただいたようで」
「おー、鬼切はん。わざわざ申し訳ない。事務の方が、珍しく遅刻していると言っておられて」
「そうなんですよ。昨日、二子社長にいろいろ教えを乞うたんですが、内容が難しくて頭がパンクしてしまいまして。それでぐっすり寝てしまったんですよ」
猪井氏先生が受話器の向こうで「クスッ」と笑った声が聞こえました。
「そうなんか、そうなんか。まあ、これからネットショップに本気で取り組もうと思ったら、毎日そんくらい疲れるじゃろうから、慣れるまで疲れるといい。ハッハッハッ!」
猪井氏先生は、今度は大声で笑います。
「それでな。朝、二子はんに電話したら、昨日、鬼切社長と打ち合わせしたゆうてたから、鬼切はんに電話をしてみたんじゃ。どうじゃったかなと思って」
「そうなんですね。昨日、二子社長と会ったのをご存じだったんですね。いや、ホント、勉強になりましたよ。3時間以上、二子社長の話を理解するのに頭を使いっぱなしで、知恵熱が出ました。いまも少し頭が痛いですよ。それにしても、あの『売上年商1億円。利益2,000万円』という目標を立てなかったら、こんな大切なことを知れなかったわけですから、課題を出してくれた猪井氏先生にはホント、感謝ですよ」
「いやいや、鬼切はん。鬼切はんが感謝すべきなのは、二子はんに対してじゃろう。ワシのことなんかどうでもええ。二子はんに感謝せな。ネットショップのことを詳しく教えてくれてるのも二子はんじゃし、それになにより、ワシと鬼切はんを繋いでくれたのも、二子はんじゃろ。間を繋いだ人間は、本当に大切にせないかん。そして、とことん尽くさないかん。いまは鬼切はんが二子はんに頼ってるが、二子はんが鬼切はんに頼ることもあるかもしれん。いや、二子はんが頼ってくる前に、鬼切はんは二子はんに与えないかん」
少しずつ口調が強くなる猪井氏先生に、鬼切社長は疑問を感じました。なぜ、そこまで強く言うのか。確かに、間を繋いだ人間を大切にするべきなのはわかるのですが、どこか猪井氏先生に違和感を持ちました。何か、本当に伝えたいことがあるのかもしれません。
「鬼切はん、で、じゃ。昨日、二子はんに教わったことあるじゃろう。それを、自分で資料にしてみぃ。そして、それを社内で説明するんじゃ。社内に説明する前に、二子はんに説明してもいいかもしれん。人から聞いたことを、頭の中で理解するだけじゃなくて、人に説明できてこそ、『わかってる』というんじゃ。これから、ネットショップを運営していく中で、鬼切はんはいろんなことを知るじゃろう。それを、文字に残して、人に説明する。そうすれば鬼切はんの実力は確実にアップするはずじゃ」
「はい。猪井氏先生、それはわかりますし、いままでも割とやってきてる自信はありますが」
「鬼切はん、大切なのは徹底じゃ。過不足なく徹底じゃ。割とじゃなくて徹底じゃ。それを忘れんでくれ。1回でも漏らしたら終わりだと思うんじゃ。じゃあ、来週な」
要件を伝えると、鬼切社長が反論する間もなく、猪井氏先生の電話は切れてしまいました。
ツーツーツーツー
つづきはこちら。