ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら)
「七海さん、いいじゃないですか。折角ですから、15分くらい、一緒に考えてみましょうよ」
鬼切社長のあっさりとした反応に七海さんは驚きました。七海さんは自分の意見に賛同してもらえると思っていましたが、冷静な応えが返ってきたのです。
「え、ちょ・・鬼切社長は麻間(あさま)さんの宿題、おかしいとは思わないんですか?」
七海さんは鬼切社長に聞きました。そしてちらっと、隣に座る友花里さんの顔をみました。七海さんは「少しおかしいよねぇ」と語りかけるような表情をしましたが、友花里さんは「そんなにおかしくないんじゃない」という表情をしました。
「いや、普通のことなんじゃないかな。麻間さんがこの宿題を通じて七海さんに考えてもらいたいこと、身につけて欲しいこともなんとなくわかります。猪井氏(いいし)先生が私に話していた、猪井氏事務所のコンセプト通り、って感じですかね」
「猪井氏事務所のコンセプト・・」のところまで話して、鬼切社長は「おっと」と口をふさぎました。少し余計なことまで話してしまったと思ったからです。
「あまり時間もないから、早速話しましょう。いま実店舗の『笹かまオニギリ』に掲示しているポスターとチラシを見せてもらってもいいかな」
友花里さんは実店舗から持ってきたポスターとチラシを社長室のテーブルに広げました。「いまのポスターとチラシはこんな感じで作っています」。友花里さんはいいました。
「ほーほー、なるほどね。ポスターとチラシとも、同じデザインか。今回のデザインのテーマは、ここに書いてある『笹かまオニギリネットショップ4月1日OPEN』というところだね。このポスターとチラシをみたときに、その部分は伝わるだろうから、いいんじゃないかな。いいポスターとチラシ、だと思うよ。私は」
鬼切社長はいいました。七海さんも友花里さんも「そうでしょう。いい出来でしょう」というような自慢げな顔をしました。だからこそ、麻間さんの宿題の意味がよりわからないのです。
その雰囲気を察して、鬼切社長は続けていいました。
「いまいったとおり、このポスターとチラシのデザインは悪くないと思います。笹かまオニギリのネットショップがオープンしたんだよ、ということも伝わります。ただ、いまのネットショップのアクセス数は、だいたい1日に30人くらいなんだよね?つまり、このポスターとチラシだと、1日30人のお客様をインターネットに流すことができているわけだ。これをどう工夫して、1日60人にするか。その試行錯誤を麻間さんは宿題としてお願いしたんじゃないかな」
七海さんと友花里さんは、鬼切社長のいうことが何となくわかるようでした。でも、なんとなくわからないようでした。七海さんが鬼切社長に質問をしました。
「でも、いまの1日30人、インターネットにお客様を流せている状態が『ベスト』である可能性もあるんですよね?」
「もちろん、実はどこをどう工夫したり、どこをどう改善したりしたとしても、1日30人の壁をこえることはできないかもしれない。でも、できるかもしれない。それを考えていたら、仕事なんかできないよ。スマートに、最初から正解をみつけることなんて無理だ」
鬼切社長は優しい口調で、でも厳しい言葉を七海さんに伝えました。七海さんは「考えてみるしかない。試してみるしかない」ということに気づいたようでした。
「おっと、次の予定の時間だ。先に出ますね。とにかく、アイデアをいろいろ考えて、いろいろ試してみてください。折角の機会だから、いろいろやってみようよ」
鬼切社長はそういうと、社長室から出ていきました。
つづきはこちら。