ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら)
「どういうことかと言いますと、物流の拠点を変えるんですね」
「というと、どういうことでしょうか?」
鬼切社長には全く意味がわかりませんでした。あれほど、二子(にこ)社長に懇願していたのに、鬼切社長は一気に困ってしまいました。
「配送料金はどのようにして決まるかは、鬼切社長もご存じですよね?」
「はい、知っていますよ。発送した場所と、お届けする場所によって、金額が変わるんですよね」
「そうです。例えば、北海道から鹿児島に商品を送るのと、福岡から鹿児島に商品を送るのだと、どちらが配送料金が安いかといえば、当たり前ですが、福岡から鹿児島の方が安いんですね。近いですから」
「はい、そうですね。当たり前ですよね」
「ネットショップには全国各地から注文がきて、全国各地に商品を発送するわけです。全国に商品を発送するとき、配送料金の視点では、どこに物流の拠点を持つのが適切なのか、そこを考えるということなんですね」
「なるほど。商品を全部、離れたところから送っていたら、配送料金は高くなるということですね。同じ商品、我々なら同じ笹かまぼこを送っているにも関わらず」
「そういうことです。もっと細かく言えば、ネットショップは全国各地から注文がくる可能性があると言っても、現実にはどこかの地域に注文が偏っていたりするわけです。都道府県によって人口も違いますし、趣味嗜好も若干異なるかもしれません。それを加味した上で、物流の拠点を決める、ということですね」
「確かに、それならば、配送料金を抑えられる・・というか、なんていうんですかね、できるだけ最適なカタチにおさめることができる、と言えばいいのでしょうか」
鬼切社長は腕を組み、深く納得したようでした。
「物流拠点というと、どうしてもどこか1か所でまとめて行うことをイメージしてしまうところがありますが、全国に2か所、3か所の拠点をつくることも有効でしょうね。お客様にもいち早くお届けができるようなりますし。もちろん、商品の在庫をどれくらい置いておくかとか、倉庫をどうするのかとか、自社でやるのかアウトソーシングするのか、様々な問題も絡んでくるんですが。まあ、配送料金の最適化という部分について、自ら改善できるとすれば、このあたりですかね、という話です」
「ありがとうございます。勉強になりました。これは確かに裏ワザ、ではないですね」
鬼切社長は深く頭を下げました。二子社長はビールをグビッと飲み干し、ひと息ついてから鬼切社長に言いました。
「鬼切社長、これで物流費については終了です。まだ前半戦で、ここから後半戦ってところなのですが、どうしますか、やりますか」
ふと、腕時計を見ると、その針は22時を指していました。もう居酒屋に入ってから3時間が経とうとしています。
「いやー、このまま全部お聞きしたいところなんですが、もう時間も遅いですし、二子社長の迷惑になりそうですし。それになにより、ここまで物流費のお話を伺って、正直、頭の中パンパンですわ。もし可能ならば、また時間をいただけると嬉しいのですが」
「そうかなと思っていました。さすがに、これだけ聞かれていると頭がいっぱいになりますよね。すいませんでした。じゃあ、もし鬼切社長のご都合が合うならば、明後日はどうですか?ちょうど、夕方おにぎり水産の近くに行く予定がありますので、その後でもお伺いしますよ」
実は明後日は、鬼切社長の奥さんの誕生日なのですが、「これからのおにぎり水産にとって大切なことだ」と鬼切社長は思い、二子社長との予定を優先することにしました。
「大丈夫です。明後日、お待ちしています。よろしくお願いします」
鬼切社長と二子社長は、居酒屋の前でそれぞれタクシーを拾い、別々の方向に帰っていきました。鬼切社長はタクシーの中で眠ってしまいました。二子社長が書いた年商1億円の一本の線が、夢にまで出てきて、鬼切社長はハッと目が覚めました。
つづきはこちら。