著者:石田 麻琴

決められる立場の人間が「いい思い」をするのは、一番最後。【no.0189】

 決められる立場の人間が「いい思い」をするのは、一番最後。

 まずは、とある方から聞いた話を。

*管理職が参加者を決める海外研修

 その会社は、毎年、海外での研修を企画していました。その研修に参加できる人の数は決まっています。毎年、社内から4-5名が選ばれていたようです。研修といっても自由時間も多く、いくつかの会社を回ってみんなで観光というもの。当然、社内のみんなが行きたいわけです。しかし毎度、研修の応募をするのですが、大体の人が行けない。というか、平社員は行けない。なぜかというと、管理職の人がその研修に行ってしまうから、らしいんですね。じゃあ、なぜ管理職の人だけが、その研修に行くことができるのか。それは、研修に行く人を「管理職の人が決めている」からだったんですね。

 それで、その人が会社の代表に就任したときに決めたらしいんです。毎年の海外の研修に行く人間は、管理職の人間が決めるが、自分にしてはいけないと。管理職の人はみんな「えーー!」です。組織の中には、やっと管理職になった人もいます。やっと自分で研修に行ける人を選べるようになって、つまり、自分を研修のメンバーに選べることになったわけなんですけど、いきなり会社の規定で、自分自身を選ぶことができなくなって、「えーー!マジかよーー!」ってなったわけです。

*「決められる立場の人間が、自分に決める」こと

 では、なんで、管理職の人が自分自身を選べないようにしたかという話です。管理職に昇格する人ですから、実力がある人だし、実績もある人です。だから、当然、選ばれる対象というか、「より選ばれるべき」対象ではあるわけです。でも、「決められる立場の人間が、自分に決める」で部下の人間が納得するのか。いかに、自分が選ばれるべき理由があったとしても、選ぶ権利をもった人間が自分を選ぶのは、頭では納得ができても、腹の底から納得できることではありません。だから、自分自身を選べないように、社内の規定を変えたわけです。

 決められる立場の人間が「いい思い」をするのは、一番最後でなくてはいけません。たとえば経営者も、創業当時からずっと借金をしていたり、毎日食うのも苦労したりして頑張ってきたとか、社員が全員反対したけど自分の英断があって今の事業があるとか、スタッフからいつも不平不満のメールがきているとか、様々な事情はあるだろうけれども、経営者は「決められる立場」なのだから、自分が潤うのは最後であるべきです。マネージャーも同様。給与とか、ボーナスとか、経費とか含めて。どんな理由はあろうと、権限を持つものが自分を優先してはいけない。それが、人の上に立つ者の宿命だと思うしかないです。

*上場後のベテランスタッフからの指摘

 これに近い話、でもないですが、もうひとつ。上場を経験した方の話です。

 苦労して苦労して、やっと上場されたんですね。上場時に少し株を手放したら、億の金額が口座に振り込まれてきた。今までお金に苦労してきたのに、いきなり通帳に9桁の数字が並んでるわけです。毎週の営業会議。これまでは1つ1つの仕事が大事な仕事、経営者の人生に関わる仕事でした。しかし、億のお金を手にしたら、どこか周りにゆるんだ雰囲気が出てしまったらしいんですね。

 そうしたら、ずっと働いてくれている女性のスタッフがそれを感じ取りました。「あなたは上場して良かったかもしれませんが、私たちは今までと同様、目の前の課題を解決するために必死になっています。悪影響になるから、もうミーティングに出ないでください」って言ったらしいんですよね。それで、はっと目が覚め、「上司とはどうあるべきか」を深く考えたといいます。

 このふたつの話を聞いて、どう思いますか?

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