ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら)
「一概に、無料の方がいいとも言えないんですよね・・」
そういう二子(にこ)社長は、何かを隠したような、言いたいことを言えないような、少しばかりミステリアスな表情をしていました。鬼切社長は、その表情の奥底に隠された秘密が気になって仕方がありませんでした。
「二子社長、すいません。すごく大切なノウハウなのかもしれませんが、触りだけでも教えてくれませんか」
鬼切社長が申し訳なさそうにそう言うと、二子社長の表情が普段と同じように戻りました。
「あー、なんか意味深な言い方をしてしまいましたね。すいません、すいません。そんなに隠すようなノウハウでもないです。気を遣わせてしまったようですね」
二子社長は鬼切社長に軽く頭を下げます。
「一概に無料の方がいいとは言えない、の意図なんですけどね。有料のショッピングモールに出店するか、もしくは有料の自社カートシステムを使うか。無料のショッピングモールに出店するか、無料の自社カートシステムを使うか。ネットショップを運営するとき、選択肢としては大きくこの4つになると思うんですが、有料のものを使うか無料のものを使うかという選択は、判断としては最後の方なんですね」
鬼切社長は、いまいちピンときていないような顔をしています。「というと?」。鬼切社長は二子社長に詳しい説明を求めました。
「どういうことかと言いますと、あくまでマーケティング戦略が優先、ということなんですね。つまり、自社の商品を『誰に使ってもらいたいか、どう使ってもらいたいか、どれくらい使ってもらいたいか、どうブランディングしていきたいか』ということを考えて、『そのためには何をしなくてはいけないか、市場はどうなっているか、競合はどうなっているか』それらを本来考えてから、ショッピングモールに出店するのか、自社カートシステムを活用するのか、を考えなければいけなんですね」
「えー、と、どういうことですかね。すいません。また先日の居酒屋での打ち合わせのように、私の中の処理機能がパンクしそうでして・・」
「鬼切社長、ごめんなさい。要は、無料のシステムを使うか否かは、マーケティング戦略による、ということです」
「しかしながら、二子社長。私はあまりインターネットに詳しくないですし、もちろん、ネットショップもまだまだ素人です。うちの笹かまぼこを、どんな人に食べてもらいたいか、どうやって食べてもらいたいか、どのくらい食べてもらいたいか、そしてどうありたいか、というところまでは考えられるんですが、それを実現するために、何が必要か、市場がどうなっているか、競合がどうなっているか、なんて到底わかりません」
鬼切社長の正直な気持ちでした。二子社長は優しく返答をします。
「鬼切社長、もちろん、誰だって最初はそうです。ですから、現状持っている限られた情報の中で進んでいかなければいけません。やっぱり気持ちとしては、ベストなものを見つけてから進みたくなるのですが、結局はこれまでの他のネットショップの事例というのは、他人事なんです。おにぎり水産とは、市場が違えば、競合も違う。商材も違えば、運営しているスタッフも違う。違うことだらけです。だから、ベストは永遠に見つからないですよ。まずは、現状の情報の中からベターな選択をして、進むだけです。違っていたら、変更すればいいだけじゃないですか」
「まあ、確かにそうなんですが・・。やはり自分がインターネットの素人だとわかっているので、ひとつひとつの選択が不安なんですよ」
「鬼切社長は、『わかっているふり』をしないので素晴らしいと、私は思いますけどね。いままで歩いた道ではないので、不安はあると思いますが、歩いていくために持っておくのは、いつの時代も変わらない『原理原則』ですよ。地図を持つより、コンパスを持て、ですね」
鬼切社長には、二子社長の後ろから後光が差しているように見えました。
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