著者:石田 麻琴

正直に申し上げると、とても迷惑なんです。【no.0240】

 ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら

 二子社長が鬼切社長に話したギョギョ水産ネットショップの話は、おにぎり水産ネットショップが陥ったことに酷似していました。

 ギョギョ水産も笹かまぼこの直販の直販を目指し、ネットショップへの参入を決断しました。おにぎり水産、にこにこ水産が出店している同じショッピングモールです。ショッピングモールの営業セミナーに参加し、1年足らずで月商3,000万円を達成した東北の大手パンメーカーの事例を知ったことが出店の決め手になったようです。

 ギョギョ水産は短期的な売上拡大を狙い、ショッピングモールのメガプラン(月額10万円、ロイヤルティ3%)を選択し、強気でネットショップをスタートしました。インターネットに触れられるスタッフが社内にいなかったため、新たにインターネット事業部を創設し、新規に担当を採用しました。大手ネット広告代理店からUターンして戻ってきた25歳の男性でした。前職では、年商100億円のネットショップの担当をしていたとのことで、自信満々での入社だったようです。

 しかし、ギョギョ水産のネットショップは、おにぎり水産のネットショップと同じ道を辿ります。入社したインターネット担当者は、実はネットショップ運営に関する知識がなく、すぐさま広告戦略に走りました。ショッピングモールの担当が次から次へと広告の提案を持ってきます。インターネット担当の仕事は、広告を選定するだけでした。広告を出稿し、成果が落ちれば値段を下げたりおまけをつけたり。また広告を出稿して、また値段を落として‥。どんどんサービスがデフレ化していきました。

 ギョギョ水産の社長もインターネットのことは全くわかりませんでした。だから、担当の25歳の彼にすべて判断を委ねるしかありませんでした。担当者は「新規のお客様を獲得するためですから!」と言い、社長を説得していました。しかし、いっこうに広告を使って新規のお客様へのアプローチをするだけだったのです。ある日、社長が彼を呼び、事情を問いただすと、「僕が前職で担当していた年商100億円のネットショップではこの方法で成功していました!こんな小さな会社のノウハウとは一緒にされたくないです!なにより商品が悪い!こんな商品じゃ売れない!」などと突然不平不満を言い始め、手に持っていたペットボトルを叩きつけて、社長室から出て行ってしまったそうです。

 そして彼は、次の日から会社に来なくなってしまいました。残されたのは、担当者がいないネットショップと、どうやって活用すればいいのかがわからない顧客リスト。ネットショップの業務が滞ったギョギョ水産にはお客様のクレームの電話が大量にかかってきて、事務所の方の中にはノイローゼになってしまった人もいたようです。

 そんなとき、鬼切社長と同じようにギョギョ水産の社長が二子社長のところに相談にきたということでした。

 鬼切社長は二子社長の話を聞きながら、背筋が凍るのを感じました。おにぎり水産のネットショップと状況が似ていたからだけではありません。ネットショップ専門の担当を採用していたり、多くの出店費用とインターネット広告費を使っていたり、クレームの電話でスタッフがノイローゼになったりと、おにぎり水産以上に悪い状況を感じたからでした。

「それで、ギョギョ水産のネットショップはどうなったんですか?」

「やめてしまいました。私も出来る限りのアドバイスはしたんですが、『もうネットは疲れた』と仰って。ギョギョの社長もかなり精神的にきていたみたいですね‥」

 二子社長は続けて言いました。

「ギョギョ水産さんのようなこと、おにぎり水産さんのようなこと、インターネットに慣れていない会社さんにはよくあることだと思うんです。しかし、正直に申し上げますと‥こういうことを起こされると、ウチのような会社にとってはとても迷惑なんですよ

 少し怒気が混ざった言葉に、鬼切社長はさらにゾッとしました

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