著者:石田 麻琴

当たり前のこと、当たり前にわかって行動できてるん?【no.0263】

 ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら

 しばらく、目をつぶって顎を触ったのち、猪井氏(いいし)先生はパッと目を見開いて言いました。

「でな、笹かまぼこ5枚セットで780円は安すぎると思うんじゃけど。送料無料だし」

「そそそそうですね。すいません。実店舗の話なんて余計でしたよね。まあ、自分でも良くもまあ、ここまで価格を落としたもんだと反省しています。二子社長にも怒られました」

 鬼切社長はシュンとしてしまいました。

「まあ、あんまり安くするとな。ブランド価値が落ちるとか、そういうことももちろんあるんじゃけど、何で商品を買ってくれたのか、わからなくなるんじゃ。グルメ特大号じゃったら、食べるのが好きな人が買ってくれて自分で食べた。母の日と父の日の広告から買ってくれた人じゃったら、お母さんやお父さんに笹かまぼこをプレゼントしてくれた。じゃあ、なんでそんな母の日、父の日なんて大事な日に、笹かまぼこをプレゼントしたんと思う?

「そういえばそうですよね。母の日といえばカーネーションだったり、スイーツだったり、他にいろいろ代表的な商品がありますもんね。父の日の『お酒のおつまみ』はともかく、母の日に笹かまぼこを選んだ理由がイマイチわかりません。もしかして、お母さんが笹かまぼこが好きだから、でしょうか‥」

「まあ、もしそうであればそれが理想じゃな。そうすれば、母の日の広告から笹かまぼこを買ってくれたお客さんは、『お客さん自身が笹かまぼこが好きかはわからないが、母親は笹かまぼこが好き』という仮説が立つ。そうすると、そのお客さんに対しての次の提案がしやすくなるわけじゃ。でもな、値段が安いと・・」

安かったから買った可能性があるってことですね!!」

 鬼切社長は即座に言葉を発しました。

「なんじゃ、いきなり元気ええなぁ。そう、価格ってものは乱すんじゃ。考え方を。なんでおにぎり水産のネットショップで笹かまぼこを買ってくれたのか。おにぎり水産の笹かまぼこを他よりも気に入ってくれているからなのか、お母さんが笹かまぼこが好きだからか、それとも、単に安かったからだけなのか。適正な価格をつけておかないと、おにぎり水産ネットショップがもっている顧客リストははたして『どんなお客様なのか』、インターネット広告掲載というアクションから導き出される仮説がブレブレになるわけじゃよ。まあ、メールマガジンを送ってもほとんどリピートしてくれていないってことは、単に安かったから買ってくれただけ、という可能性もあるなぁ」

「え~、ということは、新規のお客様を集めよう集めようとして、今までかけてきた広告のコストは無駄だったってことですか?3,000人のお客様のリストがパーってことですか?」

「まあまあ、そこは完全にパーということは言えん。話したように、複合的な要因が多すぎて仮説が立てられないだけじゃから。しかし、今の顧客リスト3,000人に関して、少なからずわかっていることもあるで。グルメ特大号からの1,000人は自分で笹かまぼこを食べた可能性が高く、母の日の広告からの1,000人は母親にプレゼントをする人であり、父の日の広告から買った300人はお酒のつまみに笹かまぼこが良いと思った人、そしてショッピングモールのランキングや検索から買った人は、みんなが買っていたり、みんながオススメしているものを買う人。あくまで可能性じゃ。値段が破格すぎたからな」

「そんなこと、当たり前じゃないですか!」

「そう、当たり前じゃよ。でも、鬼切はん、あんた、その当たり前のこと、当たり前にわかって行動できてるんか?だってメールマガジンも、全員同じ内容で流したんじゃろ?お客さんが買ってくれた理由はそれぞれ違うのに。当たり前ゆうけど、頭で理解しているだけで、全然行動が伴ってないじゃろうが」

 鬼切社長はまたシュンとしてしまいました。

「じゃあ、鬼切はん。だったら、おにぎり水産のネットショップは、どんなお客さんに買って欲しいのか、考えてみい。それが鬼切はんの宿題じゃ」

 猪井氏先生はそう言うと、スッと立ち上がって出口の方に向かいました。そして、ドアのノブに手をかけると、振り返って言いました。

「そもそもそれ考えずに、広告なんかかけたらいかんじゃろ!なぁ!?」

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