著者:石田 麻琴

ボクシングの世界チャンピオンが言っていた、試合中に考える「たったふたつ」のこと【no.0821】

 昔、あるボクシングの世界チャンピオンの方がいっていた言葉がとても印象に残っています。

 ボクシングの試合中に考えることは、たったふたつしかないというのです。そのふたつは、「まだまだいける」と「もうダメだ」というのです。

*試合中は精神的なものが大部分を占めるということ

 次に相手がどんな攻撃を仕掛けてくるのかとか、今日の自分の調子はどうだとか、試しにこういう攻撃をしてみようとか、実際には他にも考えていることはあるのでしょうが、それでも「まだまだいける」と「もうダメだ」のふたつしか考えないというのです。

 技術的なことは試合が始まる前にすでに済んでしまっていて、試合中は精神的なものが大部分を占めるということなのだと思います。

 「まだまだいける」と「もうダメだ」。ボクシングの試合に限らず、仕事やはたまた人生においても人が考えることは詰まるところこのふたつしかないのではないでしょうか。そして、できれば「まだまだいける」と「もうダメだ」を繰り返し考えていられるほど、チャレンジをしている自分でありたいものです。

 「まだまだいける」と「もうダメだ」は仕事でも人生でも幾度となく繰り返されます。かのボクシングの世界チャンピオンも、「まだまだいける」と「もうダメだ」の気持ちを試合中に何度も何度も何度も行き来すると言っていました。

*「もうダメだ」のフェイズをどうやって切り抜けるか

 「まだまだいける」と「もうダメだ」の配分はポジティブ思考の人、ネガティブ思考の人、人間の性格によってバラつきがありそうですが、どちらかというと「もうダメだ」の配分が偏っている人が多いのではないでしょうか。かくいう私も、「もうダメだ」の配分に偏っている人間だと思います。

 「まだまだいける」を連続して続けることができて、時折「もうダメだ」が挟まり、そしてまた「まだまだいける」が続くならば、どんなに美しいチャレンジになるかと思うのですが、残念ながらチャレンジというものはそうはなりません。

 少なくとも、「まだまだいける」と「もうダメだ」は同じだけの配分があり、さらに「もうダメだ」の配分の方がちょっとだけ多く、この「もうダメだ」のフェイズをどうやって切り抜けるかが、チャレンジを「継続する」ポイントになるのではないでしょうか。

 100回たたけば壊れる壁があるとする。でも100回たたけば壊れることを知らないがために、壁を99回たたいたら「もうダメだ」と諦めてしまう。壁が壊れる瞬間があと1回に迫っているのに。というような話がありますが、「この方法で本当に壁が壊れるのか、壊れるとすればそれはいつなのか」がわからないと、人間は「もうダメだ」に陥ってしまいます。

 「もうダメだ」と思って、次の一歩が踏み出せない場合、自分を後押しするひとつの解決策になるのが、「過去にもこういうことあったじゃないか」と、経験を振り返ることではないでしょうか。

*目前の「もうダメだ」は最も難解な課題だと思いがち

 自分にとって、いま目前に迫っている「もうダメだ」はこれまでの人生で最も難解な課題だと思いがちです。「いままではこんな難しい課題を抱えたことはなかった。だから、『もうダメだ』」と考えてしまい、そこに負けてしまうと継続を辞めてしまうのです。

 たしかに、いま向き合っている課題は最も難解な課題かもしれません。でも、同じように過去にも「当時の自分にとって」最も難解な課題に直面し、どうにかしてその課題を解決してきたわけです。「過去にもこういうことあったじゃないか」と振り返ることが、次の一歩を踏み出すための勇気になります。

 これを「成功体験」といってしまうと意味合いは異なるのかもしれませんが、結果はどうであれ「課題に向き合い続けたこと」も「成功体験」になるのかもしれません。すべては気の持ちよう。自分にとって「良い方向」に考えていく方が幸せです。