ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら)
「ほんで、『売上年商1億円、利益2,000万円』ゆー目標の、現実性は見えたん?」
おにぎり水産に到着し、会議室のソファーに座るなり、猪井氏(いいし)先生は鬼切社長にそう質問をしました。一か月ぶりに会う猪井氏先生は、いつもより無精ヒゲが伸びているように感じました。
「二子(にこ)社長にそのあたりを詳しく教わったのは良かったんですが、想定だと利益は7%しか残らない計算になってしまいまして。年商1億円も簡単ではないと思いますが、利益2,000万円も難しいのではないかと思いました」
「ふむふむ」という感じで、猪井氏先生はいつもより長く伸びたアゴヒゲを触りながら、鬼切社長の話を聞いていました。
「そしたら、鬼切はん、『売上年商1億円、利益2,000万円』ゆー目標、やめんの?」
「いや、まー、折角その目標を立てたんで、やめたくはないんですが、現実路線として『売上年商1億円、利益700万円』という目標に切り替えてもいいのかな、と・・」
「ばかもん!」
猪井氏先生は、鬼切社長の発言に被せるように言いました。
「鬼切はん、あんた、まだ何にもしとらんじゃないか。そもそも、いまはネットショップの売上はゼロじゃろう。ネットショップを運営して、試行錯誤をして、その結果、利益が7%しか残らなそうならば、そこを目標にしたってもいい。でも、あんた、まだ何にもしとらんじゃろう。そんなんじゃあ、目標を変える意味もなかろうが」
「確かに・・」。鬼切社長は、恥ずかしさと情けなさで、うつむき加減になりながら言いました。
「ま、とりあえず、二子はんにどんなことを教えてもらったか、ワシに説明してみい。その中から、『売上年商1億円、利益2,000万円』のために、どんなことが必要かっていうとこを探そうや。それが今日のテーマじゃ」
鬼切社長は、立ち上がり、会議室のホワイトボードに二子社長に教えてもらったことを書きだしました。
年商1億円を100%とし、利益2,000万円を20%とすること。商品原価率が35%であること。現状の発送だと、物流費が39%になってしまうこと。システム利用料は9%を想定していること。固定費(人件費)は専任を1人つけることで3%になること。広告費はひとまず7%を想定していること。そして、全てを合計すると113%となり、利益を削って100%に調整することを考えたこと。これらをできるだけ丁寧に説明しました。
「おお、よくわかっとるやん。上出来、上出来、予想以上だわ」
檄が飛んでくるものだと鬼切社長は思っていましたが、猪井氏先生から「意外な」お褒めの言葉をいただいて、少し顔がほころびました。
「え、本当ですか。良かったです。二子社長が盛りだくさんで教えてくれたものですから、ちゃんと自分の中で消化ができているか、不安だったんですよね」
「そうかそうか。それは良かった。んで、利益目標を20%にしておくためには、この13%をどうにかせんといかんと思うんだけれども、鬼切はんは、どう思う?」
鬼切社長は、少し考えてから言いました。
「そうですねぇ。二子社長と話す前までの私だったら、おそらく人件費の3%をどうにかしていたんだと思うんですよね。いま、人件費を300万円で見込んでいるのですが、いままでどおり事務の人間に兼務してもらうことで、100万円なり50万円なりに削減できるでしょうから」
「でも、100万円なり50万円なりにおさめたとすると、他の重大な問題が絡んでくるわなぁ」
「そうなんです。それが先日、二子社長と打ち合わせをしていて気づいたことなんですが、人件費を100万円なり50万円なりという予算で考えていたら、『そもそも、年商1億円に到達するのか?』という話なんですね。商品原価や物流費のように、売れたらかかるお金ではなく、人件費は売上ゼロでもかかるお金なので、できればコストとしては薄くしておきたいと考えがちですが・・」
「それは、成長のための『必要経費』ということじゃ」
鬼切社長が発言する前に、猪井氏先生が先を越してしまいました。
つづきはこちら。