ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら)
麻間(あさま)さんの話を聞いて、鬼切社長が唖然としていると、それをフォローするように麻間さんが次の言葉を発しました。
「とはいえ、おにぎり水産のネットショップは500,000商品を扱うようなネットショップにはならないですから。5,000万円の在庫を抱えるようなネットショップにはならないと思いますから、安心してください」
「いや、ビックリしてすいません」。鬼切社長が我を取り戻しました。
「500,000ものアイテムをキャッシュフローも考慮しながらコントロールするのって、並大抵のことではないですよね。もちろん、ネットショップでもそこまで出来ている企業は、ごくわずか、なんですよね?」
鬼切社長の言葉に、大きく頷きながら麻間さんは言いました。
「もちろんですよ。そこまでのシステムを構築し、ハンドリングできる企業なんて一握りの一握りです。そもそもこんなことは、社内の人材が育っていないとシステムのアイデアすら浮かんでくることはありません。そして、システムを自社で開発するなり、外から導入したりしても、ギリギリのラインでコントロールするためには、やはりそこで人材の力が必要になります。変なシステムを導入するよりも、会社の『生き字引』みたいな方いるじゃないですか。そのような方に、在庫の判断をすべて任せた方が良い場合もあります」
麻間さんの話を、鬼切社長はメモしました。特に、「人材」という言葉、「アイデア」という言葉、「システム」という言葉、「コントロール」という言葉を大きな文字で書きました。
「いま麻間さんがおっしゃったこと、おにぎり水産の工場のシステムを入れ替えたときも正にそうでした。システムを導入すれば、業務効率が上がると思っていたんですが、現場のスタッフが使いこなせないんですよね。そうなると、いつの間にか今までやっていた方法に戻ってしまう。新しいシステムを使いこなしてもらうのに時間がかかりました。笹かまぼこの原材料の『仕入れ』についても、システムで計算できるように調整したんですが、30年以上勤務しているおにぎり水産の工場長の判断の方が、結局、正確なんですよね。そちらのシステムも使わなくなってしまい、工場長の判断に戻りました。でも、人の判断に依存していると、工場長の体調が悪くなったときとか、怖くて怖くて‥」
「悩ましいところですよね。鬼切社長の言っている意味はよくわかりますし、起こりやすいケースであるとも言えます。これまでの行動習慣を変えるというのは、簡単にできることではありません。習慣を変えるには時間がかかりますし、一時的にストレスがかかりますし、非効率な時期を経なければいけません。また、コンピューターよりも人の判断の方が往々にして正確であることが多いので、コンピューターを活用しても人の依存から抜け出させないことも多いです。それは『人の方がコンピューターより優秀』ということではなくて、人の頭で考えている取捨選択・判断力を、まだまだデジタルに落とし切れていないってことなんでしょうね。でもここに関して、鬼切社長は運がいいと思いますけどね。工場長への悩みが『体調が悪くなると困る』で」
「麻間さん、どういうことですか」。鬼切社長はもっていたお茶のペットボトルを置いて、麻間さんに聞きました。
「人依存の仕組みが残っている場合、ありがちなのが、担当者自身が『人依存の仕組み』に気づいていることです。いいスタッフでないと、『自分がいなくなったらこの会社は困る』と思って、自分勝手な行動を取りだす可能性があります。ネットショップだと、ウェブサイトの制作の担当者やバックヤードのデータベースの担当者など、特定のスキルや知識がないとできない仕事の担当者にありがちなパターンですね。このような環境をどう変えるか、という課題をもつ会社もあります」
「あー、うちの工場長の場合は、おにぎり水産に愛情と誇りを持ってくれているので、それには当てはまらないですね。良かったです。ちなみに、どうやってそのような課題を解決するんですか?」
「解決法は簡単です。その人よりも詳しい人を一時的に連れてくればいいんです。担当者は中に入られないように必死で抵抗しますがね。習慣を変えるために、環境を強引に壊していきます。猪井氏(いいし)先生が非常に得意としている方法です」
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