ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら)
「正直、とても迷惑なんですよ」
鬼切社長の頭の中で、その言葉が何度もこだまのように繰り替えされました。いままで水産加工業者として鬼切社長が少し見下していた二子社長。年下の人間として扱っていた二子社長にそんなことを言われてしまうなんて‥。鬼切社長は頭をバールのようなもので殴られたような衝撃を受けました。
「すいません。二子社長。本当にすいません」
鬼切社長の口からは謝罪の言葉しか出てきませんでした。でも、なぜ二子社長が「迷惑」だと言うのか。鬼切社長にはわかりませんでした。これほどの強い口調で言うわけですから、何かそれほどの理由があるはずです。鬼切社長が二子社長に質問を投げかけようとすると、二子社長の方から理由を話し出しました。
「鬼切社長、私も少し口調が強くなってしまってすいません。なぜ迷惑なのか、理由をお話しします。いいですか」
「はい。教えてください。よろしくお願いします」
「最初にお話したとおり、私たちは仲間です。にこにこ水産、おにぎり水産、ギョギョ水産も、みんな仲間です。たしかに、水産加工業者としては競合です。インターネットでの直販化を目指す会社としても競合です。しかし、私たちがこれまでずっと作ってきた笹かまぼこという食べ物を日本中、世界中に発信していく、という点では、同士だと思っています。つまり、私たちは自らの会社の業績を伸ばしていくことと同時に、笹かまぼこという食品の価値をさらに上げ、市場を拡大していかなければいけないわけです。もちろん、それは自分達のためでもありますし、地元の産業を盛り上げるため、これからの生まれてくる後世のためでもあります」
「もちろん、仰っていること、よくわかります。私も同じ気持ちです」
「鬼切社長も十分理解されていることだと思います。知っての上で、お話させていただきました。つまり、私が何を言いたいかというと、ギョギョ水産ネットショップ、おにぎり水産ネットショップがこれまでしてきたことは、その考えの全く逆をいく行為だということです。インターネット上での笹かまぼこの価値を下落させ、ブランドを失わせてしまっています。ギョギョ水産さんがネットショップを辞めるのは構いません。おにぎり水産さんも、これでネットショップを辞めるという選択肢を取られるかもしれません。しかし、私たちこれからもネットショップを続けていくんです」
「二子社長、おにぎり水産も、できれば、ネットショップを、辞めたくは、ありません‥」
「私たちは、これからもネットショップを続けていきます。続けていくためには、ブランドを作らなくてはいけません、ブランドを作るためには長い時間をかけなければいけません。そして、笹かまぼこの価値を高めなければ、日本中、世界中に発信するための原資を確保することができないわけです。私たちはそこまでを考えて、ネットショップを続けていこうとしているんです」
「二子社長。二子社長が『迷惑だ』と仰っていた理由がよくわかりました。おにぎり水産ネットショップは、目先的な売上の確保、顧客の確保に走り過ぎていました。インターネット広告を過剰にかけて、利益を削って安売りして、送料無料にして、笹かまぼこという市場を壊していたなんて、気づきませんでした。本当に、自分の不勉強が情けなくなります」
「鬼切社長、わかっていただければいいんですよ。インターネットの本質的な知識がなければ、誰だってそうなりがちだと思います。どこにでもある話と言えば、どこにでもある話です。しかし、覚えておいて欲しいのは、こんな状況だと、全員でドロ船に乗っているだけですよ、ということです。この話をしても、安売りをする会社はします。過剰な広告投資をする会社もあります。ただ、鬼切社長はきっとわかってくれると思いましたから、この話をさせてもらいました」
気づくと、鬼切社長の目には、うっすらと涙が浮かんでいました。
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