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おにぎり水産ネットショップの購入者は、笹かまぼこを食べたのか?【no.0261】

 ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら

 ピリピリとした緊張感がおにぎり水産の会議室を包みました。

「鬼切はん、あんた、お客さんの集め方、間違っとるで」

 そう言い、鬼切社長を見る猪井氏(いいし)先生の目は、今までの日向ぼっこの延長で来社したような単なるジジイとは違う、尖った目つきをしていました。鬼切社長は初めて見せた、猪井氏先生の「先生」としての雰囲気にたじろぎました。そういえば、二子社長が「猪井氏先生は厳しい、でも愛がある」と言っていたのはこのことか。ならば、この目の裏にも、深い愛情があるに違いない。鬼切社長はそう思い、口を開きました。

「すいません。そこがわからなくて。そこが今日、一番教えてもらいたかったことなんです」

「鬼切はん、謝ることない。わからなかっただけだから仕方ないと思う。これから直していこうって話じゃ。まだまだ続けるんだろう。ネットショップ?」

「はい」

「ワシが言いたいのは、今までおにぎり水産のネットショップで買ってくれたお客さんは、本当におにぎり水産で買い続けて欲しいお客さんか、ちゅーことじゃ。その、最初にやった、グルメ特大号じゃったっけ?それで笹かまぼこを買ってくれた人は百歩譲って、笹かまぼこに興味がある人じゃろう。グルメなわけじゃからな。ワッハッハ」

 鬼切社長は笑いのポイントがわからなかったので、ここはスルーしました。猪井氏先生は続けます。

「まあ、この広告で買った人は、自分で笹かまぼこを食べた可能性が高いわ。そう考えると、母の日と父の日の広告で買った人はどうじゃろな。もしかしたら自分で食ってないんとちゃうか。だって、母の日と父の日の広告って、笹かまぼこをプレゼントしましょう~ってもんじゃろ」

「そうですね。父の日は『お酒に合わせたいおつまみ』というところに掲載されていたのでグッジョブと思いましたが、そこも『お父さんにお酒と一緒にプレゼントしよう』ってことですもんね。自分で食べてなさそうな匂いがプンプンします。メールマガジンは、『先日の笹かまぼこいかがでしたか?』みたいな内容にしちゃいました」

「なるほど。笹かまぼこを食ってない人に対して、『笹かまぼこ、うまかった?』って手紙を送ったわけじゃな。ワッハッハ。おかしいじゃろ、それ」

 今度は鬼切社長も一緒に笑いました。「リピートしないわけですね。それ」。ワッハッハ。

「他にも、リピートしてくれない理由あると思うけどな。ショッピングモールの担当者にどんな入れ知恵をされたかわからんが、フツーに考えて、笹かまぼこ5枚セット980円、しかも送料無料ってのは安すぎやせんか?しかも、そのあと、これもショッピングモールの担当者の圧力なのかもしれんんけども、780円まで価格を落としてるじゃろう」

「まあ、安いですよね。さっき、猪井氏先生の近所のスーパーでは1,500円とかで売ってるっておっしゃってましたもんね。まあ、うちの工場に併設しているお店の『笹かまオニギリ』よりもはるかに安い価格です。まあ、笹かまオニギリの商品は、モノが良いので、高くなってしまうのは仕方がない部分もあるんですが・・」

「なんじゃ、実店舗があるんかい」

「はい。でも、あくまで工場併設の、ですよ。おにぎり水産は製造がメインですから。でも、けっこうお客様は来られるんですよ。観光ツアーの見学場所になっていて。笹かまぼこの工場見学ってやつですね。おにぎり水産の水産加工工場はこのあたりの他の業者に比べて広いですし、機械も比較的新しいですから。それに、笹かまぼこは宮城の名物じゃないですか。見学に来られたお客様は笹かまぼこを1枚配られて、それを食べながら工場を見学するんです。みなさんけっこう喜んでくれて、併設の実店舗でお土産に笹かまぼこを買っていってくれるんですよ」

 猪井氏先生は、この鬼切社長の長い話を目をつぶって聞いていました。右手で顎をさすりながら。

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