著者:石田 麻琴

おにぎり水産に足りないのは「小売りとしてのブランド」だけ【no.0459】

 ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら

「内製が良いのか、外注が良いのか、現状、私の方でそれを判断するだけの経験がないのですが、麻間(あさま)さんはどう思われますか?」

 「そうですねぇ」。麻間さんは顎に手をあてて少し考え、言いました。

「おにぎり水産のネットショップの場合は、取り扱う商品数が少ないでしょうから、内製でページやコンテンツの『試行錯誤』ができる環境を整えておいた方がいいと思います。猪井氏(いいし)も私も、最終的にはおにぎり水産のみなさんが自立してネットショップを運営できるように、と考えていますし。やっぱり、最後は自分達でやらなきゃ、売上はあがらないと思いますよ」

 「なるほど。そうですよね」。鬼切社長は麻間さんの意見に納得しつつも、自分達でネットショップを運営していけるのか、不安な表情をしました。

「鬼切社長。猪井氏も私もコンサルタントですが、コンサルタントって、売上をあげることはできないと思うんですよ」

 「それはどういうことですか?」。身も心も猪井氏先生や麻間さんに頼りきっていた鬼切社長は、ほんの一瞬だけ、ふたりに見放されたような感覚に陥りました。

「いやいや、変な意味ではなく、詰まるところコンサルタントが売上をあげるわけではないってことです。例えば、『こんなウェブサイトのデザインが流行ですよ』とか『この広告は費用対効果が高いと言われていますよ』とか、私たちがそういうアドバイスをできることもあるかもしれませんが、そんな小手先の戦術はすぐに陳腐化してしまいます。本質的には、商品への思いやこだわりを真正面からお客様にぶつけていって、共感してもらい、購入してもらう、それしかないわけです。それができる人って、誰ですかね?

 「やはり、それは、うちで言えば、おにぎり水産のスタッフだと思います」。鬼切社長は間髪をおかずに言いました。

「そうです。結局、その商品への思いがあり、その商品の背景を伝え、その商品のこだわりを語りつくせるのは、おにぎり水産のみなさんしかいないわけです。毎日、おにぎり水産で働いているスタッフさんが考え、実行し、試行錯誤するのが、売上をあげるために最も重要で、なおかつ必要不可欠なことなんですよね。だから、やっぱりコンサルタントが売上をあげられるわけではないんです。私たちができるのは、あくまで『環境づくり』ということになります」

 鬼切社長は感心をしました。これまで、おにぎり水産には、ウェブサイトの制作会社や広告代理店、システム開発の会社、ネットショップのコンサルタントなど、インターネットビジネスに関する様々な営業がありましたが、そのどの会社もが「私たちにお任せください」というような会社でした。

 しかし、麻間さんは、「最終的にはおにぎり水産のみなさんが『自立』しなければならない。自分達は売上をあげられるわけではない」とはっきり言い切っている。鬼切社長はインターネットのビジネスに詳しくないものの、今まで自分が行ってきた笹かまぼこの製造メーカーの事業とも通じる、仕事の原理原則だと感じました。結局は、自分自身が努力し続けないと、結果は生まれない

「麻間さん、とてもよく理解ができました。お若いのに、私たちがようやく気が付いたことに、すでに気が付かれていますね。結局、そこなんですよね」

「鬼切社長、ありがとうございます。これまでのインターネットのビジネスは、参入が早ければ早いほど有利な、先行有利な時代でした。しかし、市場は成熟期を迎え、『買いたい人よりも売りたい人』の多い時代に入っています。これから、いよいよインターネットビジネスも『経営』の時代に入っていくと我々は思っています。おにぎり水産は、商品が作れますし、実店舗もあります。足りないのは『小売りとしてのブランド』だけです。これを、じっくり着実に作っていきましょうね」

 鬼切社長は大きく頷きました。

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3 コメント

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