著者:石田 麻琴

おにぎり水産にシステム担当の麻間さんがやってきました【no.0441】

 ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら

「こんにちは、初めまして。猪井氏の事務所に所属しています麻間(あさま)と申します。よろしくお願いします」

 猪井氏(いいし)先生がおにぎり水産を訪れてからちょうど2週間後、猪井氏先生の会社のネットショップシステム構築の担当者がやってきました。猪井氏先生と一緒に仕事をしているとは思えないほど、若くスタイリッシュな男性です。一見すると、丸の内で働く商社マンのようでした。

「猪井氏先生から話は聞いているでしょうが、おにぎり水産の代表を務めています鬼切と申します。この度は、お忙しい中、遠方までありがとうございます。随分お若い方が来られたので、少し驚きました。麻間さん、いまおいくつなんですか?」

 おにぎり水産の会議室に案内をしながら、鬼切社長は気になる年齢を麻間さんに聞いてみました。

「ははは。猪井氏先生もお年ですし、驚かれる理由もわかります。いま、30歳です。1984年生まれですね。三十路になったばかりです」

 鬼切社長と麻間さんは会議室のソファーに座りました。麻間さんからいただいた名刺には、「執行役員」という肩書が入っています。

「お若いのに執行役員をされているんですね。立派ですね。猪井氏先生に目をつけられているんだから大したものですね」

「いやいや、猪井氏としては、私に責任を持って仕事をして欲しい、ということだと思いますよ。小さな会社ですし、執行役員といっても実務がほとんどですから」

 そう言って、麻間さんはニッコリと笑いました。丸の内のOLなら、コロっといってしまいそうな笑顔です。(ここから20分間ほど、鬼切社長と麻間さんの世間話が始まるのですが、都合上カットします)

「で、ですね。鬼切社長、今日、私が御社に訪問したのは、ネットショップの構築のお手伝いをさせていただくためです。いろいろと鬼切社長にヒアリングをさせていただきながら、おにぎり水産の新しいネットショップの機能をまとめていきたいと思っています。と、その前に、先々週、猪井氏から2点ほど宿題が出ていたかと思いますが、進捗の方いかがですか?一応、猪井氏の方から悩みなどないか聞いてくるようにと言われましたので」

 そう言うと、麻間さんは申し訳なさそうな顔をしました。「猪井氏先生の宿題、大変ですよね」。そんなことを伝えるような表情です。

「そうでした、そうでした。先々週の打ち合わせで、『ネットショップの責任者をどうするか』という宿題と、『おにぎり水産の笹かまぼこを1セット5,000円で売るにはどうすればいいか』という宿題の2つをもらっていました」

 鬼切社長の話を聞きながら、麻間さんは宿題の2点についてのメモを取り始めました。

「まずネットショップの責任者についてですが、いま社内で調整中です。最初は私が責任者をやろうと思っていたのですが、社長という役職を務めている以上、他の仕事の都合もありますので、ネットショップを丸々すべて見るのは難しいかと思いまして。かといって、以前のように兼務で誰かに任せても、成功する可能性が低くなると思いますので、若くてパソコンが得意な人を充てようと考えています」

「なるほど。了解しました。最初のうちは、できる限り鬼切社長にも打ち合わせに参加していただいた方がいいですね。おにぎり水産のことを一番よく知っているのは鬼切社長ご自身ですから」

「もちろんです。新しい責任者には実務を中心にお願いしたいと考えています。戦略面は私も入ります。それと、笹かまぼこを1セット5,000円で売るにはどうすればいいか、という話ですよね。こちらについては、私もどうすればいいか考えましたが、煮詰まってしまいましたので、今週の始めに社内のメンバーを集めて打ち合わせを行いました」

 「どうでしたか」。それまでメモを残しながら話を聞いていた麻間さんは手を止め、鬼切社長の方に顔を上げました。

「笹かまぼこが5,000円で売れるわけがない、とみんなに怒られました」

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