著者:石田 麻琴

Eコマース事業に、完全な「お客様の立場」の人間を1人用意すること。【no.1153】

 あなたの会社には、完全な「お客様の立場」の人間が1人いるか―――。

 昔、岩佐さんから聞いた話である。週刊ダイヤモンド編集部の話だ。岩佐さんがいた頃の週刊ダイヤモンド編集部は、編集長、副編集長、記者の3つの立場で成り立っていた。(おそらく、現在もほぼ変わらないとは思う)。その中で、編集長だけが完全な「読み手(=お客様)の立場」を貫く、というのだ。編集長の仕事は、実はそれだけしかないとも。

*編集長の指示や指摘は、そのまま読み手の意見

 編集長は読み手の声の代弁者なわけだ。だから、お客様の声を編集長が副編集長以下に伝えることになる。「こんな特集が読みたい」「そんな記事じゃつまらない」「読みづらい。わかりづらい」。編集長の指示や指摘は、そのまま読み手の意見ということになる。

 この「お客様の立場」から意見をおこなうとき、大切なことがある。それは、「週刊ダイヤモンド編集部の事情は関係なく」意見を出すということだ。「あんたらの事情は知らないが、お客様はこういう特集が読みたいと思っている」。市場のニーズをそのまま伝えることが大切なわけだ。

 当然、必ずしも実現可能なことばかりではない。「いまから取材しても間に合いません」「記事にするには情報が少なすぎます」「どうやってデータを集計するんですか」。副編集長や記者からは「できない理由」がたくさん出てくる。どこの会社とも一緒のことだと思う。

*もし「編集長=お客様の立場」の人間がいなくなったら

 ただ、編集長はそれでも「お客様の立場」を貫かなくていはいけない。なぜなら、それが「お客様が求めていること」だから。副編集長や記者には「できること」をやってもらうのではなく、「勝てること」をやってもらわなくてはならない。もし、この「編集長=お客様の立場」の人間がいなくなったとしたら、週刊ダイヤモンドは発刊されたとしても、市場から徐々に遅れを取っていくことになのだ。

 さて、あなたの会社には、完全な「お客様の立場」の人間が1人いるだろうか。このECMJブログ的にいうならば、あなたのネットショップには、完全な「お客様の立場」の人間が1人いるだろうか―――ということになる。

 毎週、隔週、毎月のどこかの頻度で、ネットショップの運営会議、戦略会議をおこなっている会社は多いだろうと思う。そこで「お客様の立場」から意見や指示や指摘が出せているだろうか。「それは現状のウチでは無理だから」「カスタマーサポートの○○さんに負担がかかっちゃうよね」「いずれ頑張りましょう」などと、自分たちの事情で「改善と施策」を選別してしまってはいないだろうか。

*「市場のペース」とは「お客様のニーズ」「お客様の潜在需要」

 改善とは、自分たちのペースでやるものではなく、市場のペースでやるものである。そして、その市場のペースとはすなわち、お客様のニーズ、お客様の潜在需要ということに他ならない。

 Eコマース事業を成功させたいならば、必ず1人、完全な「お客様の立場」の人間を置こう。経営者や事業責任者がEコマースの知見に自信がないのならば、コンサルタントを入れるのもひとつの手かもしれない。ECMJの宣伝っぽくなっちゃうけれど。

 とにかくマズいのは、ひとつは市場のペースではなく、自分のペースでの改善サイクルが出来あがってしまうこと。もうひとつは、Eコマースをわからない人がわからないなりの意見・指示・指摘を伝えてしまうこと。これではネットショップはずっと成長しない。結果として、ズルズルと時間(=人件費)の大きなコストを支払うことになってしまう。

 あなたのネットショップには、完全な「お客様の立場」の人間が1人いるだろうか―――。