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2011年の10月、ひとつの会社が誕生した。その1か月ほど前のことだ。
会社を設立するにあたって、取締役を選任するかという課題があった。もちろん、僕が代表取締役。そして、僕の頭の中には当然のように岩本さんの存在があった。
ある日、いつものように新宿の「コロンバン」で岩本さんと打ち合わせをしていた。会社の設立に向けた準備が着々と進んでいたときだった。僕は、思い切って岩本さんにいった。
「岩本さん、うちの会社の取締役になってもらえませんか?」
岩本さんほどの方だ。役員報酬や条件もなしに取締役のお願いをするのは、本来おかしなことだ。断られてしまったり、怒られてしまったりすることも承知の上での依頼だった。岩本さんの答えは、とてもあっさりしたものだった。
「おう!」
思った以上に簡単にオーケーをもらえて拍子抜けした。それよりも、これからも同じ会社のメンバーとして岩本さんと事業を進めていくことができること、これからも岩本さんが僕の近い存在でいてくれること(それを了承してくれたこと)が何よりもうれしかった。
「ただし、ふたつ条件がある」
岩本さんは続けるようにいった。岩本さんが提案したふたつの条件―――。ひとつは、岩本さん以外にもうひとり取締役を選任すること。意見のバランスが岩本さんに偏らないようにするための条件だった。もうひとつは、毎月1回、取締役会を開催すること。これをクリアできたら、岩本さんは取締役を引き受けてくれるということだった。
もうひとりの取締役―――。僕の頭の中には、片岡さんしか思い浮かばなかった。
この頃、片岡さんとは週に2-3回はお会いする関係になっていた。片岡さんに紹介してもらった勉強会に参加することも多かったし、一緒に相談に乗っているクライアントさんもいた。片岡さんは「西田くんも来れば?」と、フリーになって間もない僕をよく誘ってくれていたのだ。
その日は、神奈川県の藤沢での視察のアポイントが入っていた。池袋駅から湘南新宿ラインに乗り込むと、ちょうど同じ車両に片岡さんがいた。藤沢の駅に着くまでに、取締役の就任をお願いしようと思った。けれども、なかなか切り出すタイミングがない。しばらくして、やっと話題を出すことができた。
「今度、会社をつくろうと思うんですけれども、片岡さん、もしよかったら取締役をやってもらえませんか?」
「いいよ!」
片岡さんは間髪おかずにこたえをくれた。これで、岩本さんと片岡さんのふたりが僕の会社の取締役になってくれたわけだ。岩本さんと片岡さんと会社の間には資本関係がない。株式は100%僕が持っているし、さらにいえば、当初はふたりに役員報酬も支払っていなかった。本当に、僕のために取締役を快諾してくれたのだ。人生最大の幸運のひとつだと、いまだに思っている。
2011年の10月に会社がスタートした。岩本さんとのもうひとつの約束、「毎月1回、必ず役員会を開催すること」も、この月からスタートしたことになる。最初の役員会は、たしか木瀬さんのオフィスの会議室をお借りして開催した。もちろん、メンバーは僕と岩本さんと片岡さんの3人だ。僕は、岩本さんと片岡さんのふたりと話すのが、本当に好きだった。
会社をスタートした当初はそれほど仕事があったわけでもない。それでも、毎月、役員会は開催される。何か、新しい話のネタをつくらなければいけない。新しいタネを用意しなければいけない。これこそが、岩本さんが「毎月1回、必ず役員会を開催すること」を提案した狙いだった。
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