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あなたをプロの世界にいざなう「魔法の薬」。その6【no.0992】

 ここからは野球選手になったつもりでブログをお読みください・・(前回はこちら

「あるよ。いつもの薬より、数倍効く薬がある」

 男はいいました。あなたはその男の言葉に、プロ野球選手として生き残るための光が見えた気がしました。

「本当ですか!?お願いします。ぜひその薬をください。いつもの口座に30万円、振り込めばいいですか?なるべく早めにいただけると助かります」

 あなたは必死です。明日にでも監督やコーチ、チームメイトを見返したいという気持ちでいっぱいです。そして、1日でも早く活躍できないとメンバーから外されてしまうのではないか、そんな不安もありました。

 男はそんなあなたの気持ちをかわすように、いいました。

「おっと。●●君、急ぎ過ぎだよ。私が君にいったのは、『いつもの薬よりも、数倍効く薬がある』ということだけさ。その薬がいま私の手元にあるとはひと言もいっていないし、価格だって伝えてはいなかったはずだ。現に、いまその薬は私の手元にはない。そして、知人を頼ったとしても本当に手に入るのかもわからない。そんな薬さ。幻の薬なんだよ。魔法の薬、ではなくてね」

「じゃあ、どうすれば・・」

 あなたの声が落胆の声に変わります。一度見えかけた光は、暗闇に少しずつ飲みこまれていきました。

「方法は、もちろんあるさ。●●君のために、なんとかして幻の薬を探し出そう。幻の薬を使っているプロの選手からいくらか買い取ってもいいわけだしね。●●君のためになんとかするさ」

「ありがとうございます!」

 あなたの気持ちに、また強い光が差し込んできました。

「ただし。いまの同じ価格というわけにはいかない。申し訳ないが、すぐに1,000万円振り込んでくれ。こちらにも非常にリスクの高い仕事なんでね。それくらいはいただくよ」

「え・・1,000万円・・。そんな大金払えません!」

 突然の、あまりに現実とかけ離れた数字に、あなたは驚きました。男はあなたをぐりぐりと押しつぶすように、低い声でゆっくりと迫ってきました。

「じゃあ、あんた、どうするんだ。このままでいいんかい。このままだったら、監督にもコーチにもチームメイトにも見放され、球団にいられなくなるぞ。それでもいいんかい。あんたねぇ、勘違いしてるよ。自分には実力があると思ってるんだろう。プロでやっていける実力があると思ってるんだろ。無いんだよ。最初から。俺がなぁ、あんたをプロにしてやったんだよ」

 あなたの心の中の何かが壊れました。電話で話している男は、いつもの男ではありません。

「あんたねぇ。ここまできたら、1,000万円を払ってプロを続けるか、1,000万円を払わずにプロを諦めるか、どちらかしか選択肢はないんだよ。そもそもあんたにはプロでやっていくだけの技術がない。魔法の薬に頼りきって、本当に大切なことを失ったんだよ。諦めて、1,000万円払えよ」

 あなたの頭の中で、男と初めて出会ったときのこと、ドラフトでプロに指名された瞬間、プロでの活躍、ファンの期待を裏切ったこと、いままでの全てが走馬灯のように流れていきました。

「明日から・・明日から、初心に戻って練習します。他の選手の倍、練習します。そして、みんなに追いつきます」

「そんなこと、本当にできるのかい。できるわけがない。一度甘い汁を吸った人間が、そう簡単に時間をかけて積み重ねる努力はできるようにならないよ。あんたは、もう、悪魔に犯された選手なんだよ。●●君。これは魔法の薬じゃなくて、悪魔の薬だったのさ」

 あなたの手元から携帯電話がすり落ちていきました。そして、あなたはその場にうずくまり、頭を抱えました。

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