著者:石田 麻琴

広告をかけて利益が残るのは、基本的に利益率が高い商材パターン【no.0980】

 ネットショップのあるあるストーリー、「鬼切社長シリーズ」。(前回はこちら

「より広告費を出せるところが勝ちますよね」

 友花里さんはいいました。麻間(あさま)さんは頷きます。

「そういうことになります。広告をかけないと新しいお客様にリーチすることができない。ただ、広告をかけるとその時点では赤字になってしまう。だから広告をかけ続けるしかない。しかし、同じような商品をより資本力がある会社が出してきたら困ってしまう。ジレンマですね」

 七海さんがホワイトボードを指して言いました。

「いまみたいなリピート購入を前提にした『広告費>利益』のパターンの他に、『広告費<利益』のパターンもありえるじゃないですか。実際にはこういう『広告費<利益』になるパターンって少ないんですか?」

「もちろん『広告費<利益』になるパターンがないわけではないですよ。実際に『広告費<利益』になっているネットショップはたくさんありますし、『広告費=利益』もしくは『広告費>利益』を覚悟して広告を出稿しましょうという意味ではないです。ただ『広告費<利益』になるパターンの多くは、利益率が高いことが原因でしょうね」

 「利益率が高いことが原因?」。七海さんは首をかしげました。麻間さんが続けます。

「『広告費<利益』の構図が生まれるためには、2つのパターンがありますよね。七海さん、何か思いあたりますか?」

 七海さんが「うーん、うーん」とうなりながら頭を悩ませていると、すかさず隣の友花里さんがこたえました。

「ひとつはかけている広告費が少なくて『広告費<利益』になるパターンですよね。もうひとつは逆に、利益が多くて『広告費<利益』になるということなのでしょうか?」

「友花里さん、いいですね。その通りです。『広告費<利益』には2つのパターンがあります。ひとつは少ない広告費で売上と利益をとれるということ。たとえば、商品原価7,000円、販売価格10,000円の商品があったとします。利益率は30%です。けっして高い利益率ではないですよね。しかし、ひとつの受注をいただくために使った広告費が1,000円だとすれば、2,000円の利益が残ることになります。『広告費<利益』のパターンのひとつ目ですね。ただ、多くの場合、このような状態にはなりません」

「利益率が低いパターンではなく、利益率が高いパターンということですよね」

 友花里さんが言いました。

「そうです。現実的に『広告費<利益』になるパターンは真逆です。商品原価3,000円、販売価格10,000円の商品について、ひとつの受注をいただくためにかけた広告費が5,000円というような状態ですね。こちらも残る利益は同じく2,000円です。これも『広告費<利益』になります。では、友花里さんと七海さんに質問です。なぜ現実的には『広告費<利益』の状態は利益率が高い商材でしかありえないのでしょうか?次回までの宿題です。考えておいてください」

 麻間さんは資料をカバンにしまうと、「では、また再来週に」と言って、おにぎり水産の会議室から出ていってしまいました。あまりの素早さに、七海さんと友花里さんは麻間さんの背中越しに「お疲れさまでした~」という小さな声をかけるだけになってしまいました。

「友花里、麻間さんが出した宿題、なんだかわかる?

 七海さんが友花里さんに聞きました。

「なんとなくわかるけど、なんとなくわかんない。七海は?」

 七海さんがこたえました。

「私はまったくわからない」

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