著者:石田 麻琴

「~と決めたら、徹底的にそれをやりきる」。鈴木修会長の話【no.0904】

 こちらも、先日うかがった話です。スズキの鈴木修会長の話です。

 夏のある暑い日。鈴木会長(当時は社長だったのかもしれない)がスズキの工場にやってきました。工場を見学しながら、「ここはこう変えられるね。あそこはこうした方がいいね」と業務改善の指示を出していきます。その数、800か所。わざわざ夏の暑い日に・・800か所を指示する方も、書き残す方も大変です。

 800か所の改善項目を指摘して、鈴木会長の仕事が終わるわけではありません。この800か所の写真を撮ってこさせます。そして、800か所の改善項目に期限をつけ、「期限の日までに、『改善した後』の写真を持ってきてください」というわけです。

 まずは改善内容を指示して、改善前の写真を撮ってこさせ、そして改善後の写真を撮ってこさせ、その800か所の業務改善の写真を右と左に並べ、見比べ確認をして、はじめて「指示が完了した」ということです。「やれと言っておいた」は指示ではありません。「やりました」をきちんと確認してこそ、「指示」だというわけです。

 物事は言うのは簡単でも、実行するのは簡単ではないものです。実行するにはより高いスキルが必要になるものもありますし、そもそも実行することは面倒なことです。何もやらずに、ただ家で寝ているだけ、オフィスでしゃべっているだけで売上が上がって、給料が入ってくればよいのですが、残念ながらそんなことはありえません。

 まず改善項目をリストアップすること、指示すること。これは成果を出すための第一ステップです。次に、改善項目を漏れなく実行してもらうこと。そして、その成果をきちんと確認すること。この流れをつくることが大切です。

 鈴木会長方式の場合、800か所の写真をスタッフに持ってこさせることで、改善項目を明確にしています。工場を見て回っている最中に「ただ何となく、口から出した言葉」にさせないためです。また、改善後の写真を持ってこさせることをルール化することで、「改善されなかった部分を確認する」仕組みも同時につくることができているわけです。スタッフにとっては、800か所の写真を持ってきた時点で、800か所の改善をコミットしたことになります。

 鈴木修会長がスズキに徹底したこと、それは「1度でも赤字を出したらウチの会社は終わり、だと全社員に認識させること」だと言います。毎年、絶対に赤字を出さないために、全社員1人1人が考えに考え、実践に実践を重ねる会社を目指しています。(だからこそ、今のスズキの形があるのだと思います)

 面白いのは、スズキの本社ビルは「学校の校舎」を使っていたということです。もちろん、教室で仕事していたわけではありません。学校のレイアウトということです。では、なぜ「学校の校舎」なのか?。建物をつくる際、「学校の校舎」のテンプレートを使うのが最も値段が安く済むから、というのが理由です。「1度でも赤字を出したらウチの会社は終わり」だという認識があるからこその選択だと言えるのではないでしょうか。

 改善項目の写真を撮らせ、事前事後で必ず確認をしなさい、と言っているわけではありません。本社ビルを「学校の校舎」にして、全社員に「赤字を出したら終わり」という危機感を持たせましょう、と言っているわけでもありません。スズキの鈴木修会長は素晴らしい方です、そう伝えたいわけでもありません。

 仕事を成功させるために最も大切である「~と決めたら、徹底的にそれをやりきる」の参考になればと思います。

 おわり。