著者:石田 麻琴

在庫を売り切ったA社、在庫が残ったB社。スタッフに対する「指示」の違い【no.0901】

 先日、とあるセミナーで面白い話を聞きました。「部下に指示を出す」ということに関するエピソードのひとつです。

 日本のとある家電メーカーの話です。Aという家電メーカーと、Bという家電メーカーの二社が登場します。

 A社、B社ともに、とある家電商品の在庫が余りました。数ヶ月後には新製品の発売もせまっており、このままだとすべての在庫がデッド在庫(売れない在庫)になってしまう可能性があります。A社、B社両社の営業担当に各々「何としても在庫を減らせ」という指示が出ました。

 結果、すべての在庫がなくなったのがA社。在庫が余り、大損をしてしまったのがB社でした。

 それは、なぜか?

 A社が営業担当に出した指示は「赤字になってもいいから、とにかく在庫を減らせ」でした。それに対して、B社が営業担当に出した指示は「できるだけ利益を確保して、在庫を減らせ」でした。このちょっとした指示の差が、結果として大きな在庫のロスを生むか生まないかの差になりました。

 A社の出した指示はシンプルだったわけです。「赤字になってもいいから、とにかく在庫を減らせ」。A社の営業担当グループもバカではありません。たとえば、販売価格1万円、原価率50%の商品を99%値引きしてまで在庫を減らそうとはしないわけです。「赤字になってもいいから」というのは、「値付けの判断はお前に任せるから」という意味です。

 B社の出した指示はA社に比べると複雑です。「できるだけ利益を確保して、在庫を減らせ」。ここには業務を遂行するにあたって必要なタスクが2つ隠されています。「在庫を減らすこと」「できるだけ利益を確保すること」この2つです。

 A社のように単に「在庫を減らすこと」が目的として共有されている場合は営業担当も自分の判断で動きやすいのですが、「できるだけ利益を確保すること」というもうひとつの条件が加わると、営業担当は自分での判断がしづらくなります。割り引き、値付けについて、「一度、社に持ち帰って」もしくは「上司に確認を入れて」から決定をしなくてはいけなくなります。

 意思決定のスピード感がまったく違う。これが、A社が在庫をすべて売ることができ、B社が在庫を残してしまった理由です。ここから学ぶことができるのは、「指示」というものはスタッフ、部下に「ある程度の権限」を与え、判断を任せることによって好回転していくものではないか、ということです。いちいち、上司に確認しなくてはいけないような「指示」は「指示」とはいえないということです。

 私はスタッフのみんなに任せています、という経営者がいます。しかし、スタッフの皆さんにお話をお聞きすると、「いちいち、上司に確認を取らなければいけません」と言います。経営者(上司)としては現場に任せているつもりでも、スタッフはまったくそう思っていない。よくあるパターンです。

 仕事の進捗状況を「自分で判断した」上で上司に報告・共有する。もしくは、仕事を「自分で判断する」ために上司にアドバイスを求める。このあたりは良いでしょう。しかし、自分で判断しようと思っていることを「いかがでしょうか?」と上司にお伺いを立てる、これはあまり良い状態ではなさそうです。上司としては任せているつもりで、スタッフはそう思っていない典型と思われます。

 ビジネスはスピードです。早い意思決定を繰り返すことで、打席に入る数が増え、少しずつ実力が上がっていきます。「命取りになるようなことでなければ、指示を与えて、あとはグッと我慢する」。組織を成長させるために必要なことではないでしょうか。

 おわり。