(前回のブログを読んでから、こちらをお読みください)
大切なのは、「違い」を明確にすることです。それが「ブランド」をつくります。そのために、何を選択し、何に集中して、徹底をするのか、それが重要ということです。
*半径30キロの円の中のお客様だけを、お客様と定義する
まずは、とある住宅メーカーの話です。その住宅メーカーは、支店をつくると、最初に地図を用意したといいます。地図を広げ、コンパスを使って、その支店の場所を基点にして、半径30キロの円を描くのです。そして、その半径30キロの円の中のお客様だけを、その支店のお客様と定義するのです。
逆に言えば、半径30キロの円から外れている方は、どうやってもお客様にしないというのです。半径30キロを商圏と定義し、お客様を定義し、その中で、月次の目標も設定しているわけです。月も終わりに近づいているが、売上が目標に届かない。そんなときに、31キロ先のお客様で不動産を買ってくれそうな人がいるとします。また、しばしばこんな状態があるようです。それでも、この会社は半径30キロを絶対に出ないのです。
半径30キロの円の中で、絶対的な違いをつくる。そのために、半径31キロ以上のお客様は相手にしないのが、絶対的なルールです。この住宅メーカーにとってのセオリーで、徹底すべきことです。もし1度でもこのセオリーを破ってしまったならば、それが大資本に寄っていく第一歩。つまり、「ブランド」喪失の始まりということになります。
そして、なぜ、半径30キロという数字に設定しているのか。それは、「お客様がクレームを入れて、待てるのは30分程度」だから、というわけです。車で時速60キロでお客様の元に伺うとして、30分以内でいける範囲、というのが基準だったんですね。
*最初にサンプルを取った人だけを、お客様と定義する
もうひとつ、印象に残った話です。
その企業はスナックやバーなど向けにナッツやドライフルーツを販売していました。味には自信があります。だから、値段は競合他社よりも必然的に高くなります。この企業としては、「味の違いがわかる」方に、ナッツとドライフルーツを買って欲しいわけです。
もちろん、「味の違いがわかる」方とお客様を定義しつつも、当然、売上目標はあります。会社の営業スタッフとしては、できるだけ売上を増やしたいわけです。その中でも、自社のお客様ではない会社とは取引をしてはいけないと、経営者は教えなくてはいけません。それを伝えるために、経営者はどうしたか。
営業に行ったときに、ナッツとドライフルーツのサンプルと、伏した商品の料金表を並べて置くように指示しているのです。そして、最初にナッツとドライフルーツのサンプルを取った人は「自社のお客様」、最初に商品の料金表を手に取ったお客様については、「その場で営業から帰ってこい」と教えているということなのです。自社のブランドを保つために、なんとわかりやすい方法でしょうか。これでは営業も一切の言い訳を加えることはできません。
「徹底」するのは簡単ではありません。経営者がスタッフを教育し、褒め、しかり、なだめながら、毎日毎日、それを徹底させていくことになります。逆に言えば、経営者自身がまず「徹底」できなければ、その会社は終わりへの道を辿っているということです。
*1つの妥協からブランドは失墜する。転落が始まる
あともうひとつ。北海道で240ヵ月連続、前年同月比を上回り続けている会社があります。240ヵ月です、つまり20年です。時代の流れや流行により、一時的に売上が跳ねる会社は多々あると思いますが、240ヵ月連続で、前年同月比を超えているのは異常ではないでしょうか。その不動産会社が自社のブランドを保つために何をしているか、です。
この会社は、お客様に不動産を購入していただいた後、必ずアンケートを書いてもらいます。初めて来店したときの印象から、購入してもらうまでの説明や対応、購入後のアフターフォローに関する期待や不安などを、項目化して、お客様に評価してもらうわけです。そして、そのアンケートを集計します。このとき、1つでも満点ではない項目があれば、ゼロ点となります。つまり、「100点-1点」はゼロ点である、という考え方です。
スタッフの皆さんは、90点なのだから合格だろうとか、95点だから良いだろうとか、不平不満も出るということです。でも、それを徹底できなければ、ブランドは保てません。1つの妥協から転落が始まるわけです。経営者としての本質的な仕事は1つだけ。社員に「徹底させ続ける」こと、というわけです。
ダイヤモンド社時代、松下幸之助さんのインタビューに行くのが、嫌だったらしいんですね。なぜ嫌だったか。何回、取材に行っても、同じ話しかしないらしいんです。同じ話じゃ、記事にならないんですよね。それほど、ひとつのことを徹底していたらしいです。