チョウチンアンコウ。3【no.1109】
(前回はこちら)
二人目は月本さんという方だった。月本さんは、知人の経営者と新しい会社を創業された。iPadを活用して、多言語対応のシステムを構築し、ホテルや旅館に導入してもらう事業を進めているそうだ。月本さんは、以前から木瀬さんや経営者OBのみなさんとも知り合いらしく、距離感の近い会話をしている。
最後に待つ僕は、この場から少しずつ遠のいている気がした。この会は、「若手ビジネスマン」の会ではなかったのだ。「若手起業家、若手経営者」の会だったのだ。僕が来るようなところではないし、僕が語るようなこともないのではないか。不安だけが増していく。
ただ、切ないのは、これが周りの誰にも気づかれていないことだ。経営者OBのみなさんも、木瀬さんも、本橋さんも、月本さんも、「じゃあ、西田さんはどんなことやられているんですか?」にきっと期待をしている。自分だけの思い込みなのかもしれないけれども、きっと期待をしている。場の空気が、自分の心を押しつぶしていった。
「じゃあ、最後に、西田さん、お願いします」。コーディネーターの木瀬さんがいった。会議が始まってからここまで1時間半。プレッシャーの中、待って待って待った。そして、「まあ、つまらないと思われても、どうでもいっか」という気持ちに到達していた。
おそらく支離滅裂な自己紹介だったと思うのだが、僕が話したのはこんな内容だ。
大学を卒業してからフリーターを経て、現在のWEBの会社に入った。この会社に6年勤めているが、その中で担当したプロジェクトで一応「日本一」をいただくことができた。ただ、業界の潮流が変わり始めていて、以前のWEBのやり方が通用しなくなっている。ポイントは、変化に対応していく「人材」にあると思う。いまの「人材」は、以前成功したやり方を変えることができない。市場の変化に合わせて「変えることができる」人材が必要だ。この問題を自分でどうにかしたいと考えている―――。
というような感じで、自分自身を「嘘のない範囲で、最大限に盛って」そして「将来の独立を匂わせる」ような話をした。
「でも、西田さんって独立してるわけじゃないんでしょ?」。「そんなこと、俺だって知ってるよ」。てっきり場からそんな反応が返ってくると思っていたのだが、思っていたよりもみなさんの反応は良かったようだ。「インターネットの業界って、あまり知らなかったけれど、そんなことが起こっているんだね」。「西田さん、日本一を取ったことがあるってすごいね」。
ここで僕はひとつのことに気づいた。みんな新聞や雑誌でWEBのビジネスについて、知見を持たれているけれども、僕のように「毎日仕事として実践している」人間と比べれば圧倒的な知識の差があるということだ。このときの僕はそんなことさえもわからなかった。
コーディネーターの木瀬さんの隣に座っていた、友人の谷井さんが発言をした。「西田さんって、twitterのフォロワーが6万人いるんだよね」。「えっ!6万人!?」。場にいたみんなが一斉に声を上げた。
そうなのだ。当時流行り始めたtwitterで僕は毎日「WEBビジネスのノウハウ」を発信していた。多少グレーな手も使いながら、ただ大部分は「ノウハウをつぶやく」というまっとうな方法で、6万人のフォロワーを獲得していた。WEBプロジェクトの話よりも、twitterの話の方に食いつきがあったのは少々残念だったけれど、なんとか場を盛り上げることができ、ホッとして帰路についた。
結果として怒られることも、恥をかくこともなかったし、いい経験をさせてもらった。また、これから仕事を頑張ろう、そんなことを思っていた翌日のこと。友人の谷井さんから電話がかかってきた。
岩本さんが、西田くんと個別に会いたいといっている―――。
つづきはこちら。
カテゴリー: 0.ECMJコラムALL, チョウチンアンコウ, 連載