「口には出さないけれど、気になること」を客観的に感じる【no.1094】
いい人財がいない、と嘆いている経営者がいた。
やっぱり最後は人。それは正しい。けれども、わが社にはいい人財がいない。それはいい人財が面接にきてくれていないのかもしれないし、いい人財が入社しても思ったように成長してくれないのかもしれない。聞いた感覚だとおそらく後者。
この経営者は外資系のコンサル会社でキャリアをスタートさせた。コンサルティング案件で接触した会社に退職後自己資金を投資し、そのままジョイン。取締役COOとして、株式上場を経験した。株は10%以上持っている。まだお若い。40歳そこそこで億万長者の仲間入りをしたという人だ。
プライベートのことを聞くと、飲むのが趣味だという。1回飲むと、朝5時まで。それがほとんど毎晩。クラブやキャバクラでひと晩30万円、50万円のお金を使うわけではない。渋谷や六本木のいきつけのバーをハシゴして、朝まで友人と飲み続けるだけ。健全といえば健全なのかもしれない。でも、それが毎日。奥様には「よくそんなに飲めるわねぇ~」と呆れられているらしい。
本人が毎晩飲む理由は、「だって、飲むのが楽しいから」。それはよくわかる。飲みの内容としても健全ちゃ健全。家族には多少の迷惑をかけているのかもしれないが、会社に迷惑をかけているわけではない。毎日、会社にも出勤しているし、人一倍以上責任を持っているのは確かなのだと思う。
ただ、「人が成長しない」ことの理由はもしかしたら自分の行動にあるのかもしれない、ということを気にした方が良いのかもしれない。会社には迷惑がかかっていないかもしれないけれど、社員にとって「いい気分がしない」ということは往々にしてある。
特に、「時間とお金」の使い方は、経営者と社員、スタッフでまったく異なる。経営者にとって、時間の使い方やお金の使い方が、たとえ「自分がこれまで培ってきた努力の結果」だとしても、会社と社員に動いてもらうためなら、我を我慢するのも大事なのかもしれない。
ひとつ、昔聞いた話を思い出した。
あるイベントの会社の話だ。兄と弟で始めた会社が苦難の末、株式公開をおこなうことができた。公開後、個人の銀行口座をみると、いままで見たことがない数字が並んでいた。8ケタ、9ケタの数字が並んでいたわけだ。それを見てから、弟は仕事に身が入らなくなったというのだ。株式公開前と同じようにミーティングをしても、どこか締まらない。
ある日、社員のひとりが言った。「株式公開で副社長は億万長者になったかもしれません。でも、私たちは今までと同じように毎日現場で同じ給料で働いています。上場してから、副社長はどこか変です。そんな感じならばもうミーティングに出ないでください」。はっきりと言われたわけだ。
株式公開をしてからが本当のスタート。この副社長の弟は、社員からもらったこの言葉をきっかけに、「会社を次のステージに上げるためには、自分は必要がない」と思い、身を引くことを決めたそうだ。
社員もスタッフもアルバイトも、経営者が思っている以上に、経営者のことを見ている。たとえ直接的な迷惑をかけていなかったとしても、朝話すと酒臭かったり、報告を眠そうに聞いていたりすれば、けっして「いい気分」はしないだろう。先に挙げた社員のように、言葉で注意してくれればまだしも、多くの場合はサイレントのまま、心は離れていってしまう。
「人が口には出さないけれど、気になること」をどこまで客観的に感じることができるかが、大切なのかもしれない。とても難しいことだけれども。
おわり。
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