後ろにいると、後ろのペースになる。箱根駅伝で印象に残ったこと【no.0478】
少し前の話になりますが、箱根駅伝を見ていたときのことです。解説の中央大学OB・碓井哲雄さんが、「ほー!なるほど!」ということをおっしゃっていました。
*「後ろにいると、後ろのペースになっちゃうんですよね」
日本体育大学か、もしくは山梨学院大学か、序盤で上位争いに絡んでくる可能性があると思われていた大学が、1区・2区を終えた時点で下位を走っている。そんな情報をアナウンサーが伝えたときでした。碓井さんが、ボソッと「後ろにいると、後ろのペースになっちゃうんですよね」と呟いたのです。その言葉の裏に隠されていたのは、「だから、上位の学校に追いつくのは難しくなる」ということなのだと思います。
もちろん、選手は前を走る大学に追いつこうと懸命に走っています。けっして手を抜いているわけではないですし、自分の実力を出し切っているのは間違いありません。でも、「後ろにいると、後ろのペースになる」。だから、前を走る学校との差が、距離を追うごとに知らぬ間にみるみる開いていくようなのです。特に、前方に前を走るランナーが見えず、後方に後ろを走るランナーが見えない状態、いわゆる完全な「単独走」になると、このケースに嵌りやすいと言います。
たとえ上位を走るランナーより、実力(駅伝の場合、1万メートル走のタイム)がまさっていたとしても、「後ろにいると、後ろのペース」に陥ります。不思議なことですが、その理由は何なのかと考えると、唯一考えつくとすれば、勝負に絡んでいることによる「緊張感」ではないかと思うのです。やはり上位で走っていると、競争への緊張感が増し、集中力が増していきます。仕事でも同じではないでしょうか。
どうりで序盤の1区・2区に各校とも主力選手をあてるわけだ、という話です。小さな差が、全体の流れを決めてしまうことの、良い例ではないでしょうか。
*1キロを3分ペースで走れば、ほぼ区間記録が出せる
もうひとつ、これも以前に聞いた、仕事を進める上で参考になりそうな話です。
箱根駅伝に区間記録というものがあります。歴代でその区間をもっとも早く走った選手のタイムです。ご存じの方も多いと思います。実は、5区・6区という山登り山下りの「特殊区間」を除いて、1キロを3分ペースで走りきると、ほぼ区間記録、もしくはそれに準ずるタイムが出せると言うのです。
箱根駅伝を走る選手にとって、1キロ3分というペースはそれほど速いペースではありません。実力として基準になる1万メートルのタイムが28分台という選手もザラです。そう考えると、1キロ3分のペースで淡々と走って、区間記録近くのタイムを出す選手が多く出てきそうなものですが、実際はそうはならないのです。
1キロ3分で淡々と走り切れない理由はメンタルです。選手は前の選手に追いつこうと自然にペースが速くなります。「最初の1キロを2分40秒で入りました」など、聞いたことがあるでしょう。しかし、必ず区間の終盤でその反動がくるのです。走り出しで突っ込んで走って、後半でバテてくる。ランナーの本能として、誰しもが「わかっていても」そんな走りをしてしまうから、1キロ3分のペースで走りきることができないようなのです。
仕事も同じく淡々と、やるべきことを飽きずに継続していくもの。そう知ってはいるものの、やはりメンタルの壁は厚いということなのでしょうか。
しかし、1キロ3分のペースを淡々と走りきることを唯一やりきれる状況があります。先頭の「単独走」です。この状況になると、前を追うことはなく、後ろからのプレッシャーも薄くなるので、もっとも理想的な走りができるようになるようです。今回の箱根駅伝でいえば、優勝した青山学院大学の復路は正にそんな感じでしたね。
ちなみに、母校の早稲田大学ですが、3区の中盤で「単独走」になってしまったのが痛かった。ここで「中位のペース」になってしまい、上位4校と差がついてしまいました。ホント、仕事でも同じことが言えそうですね。
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