こうやって、Eコマースの市場は荒れてゆく。後編【no.1093】
(前回のつづき)
B社はドライブレコーダーをインターネットで徹底的に売ることにした。市場での価格を毎日チェックし、最安値をキープすることにした。リスティング広告をかけた。リスティング広告も状況を毎日チェックし、できるだけ検索結果の1番上にリンクが出るようにクリック単価を上げた。徹底的にドライブレコーダーを売り、インターネット上に旗を立てるために―――。
A社のスタッフはすぐにB社の攻勢に気がついた。嫌な予感が的中した。B社の仕掛けが始まってから、ドライブレコーダーの売上がパタリと止まったのだった。戦略会議を開いた末、A社ではB社のマーケティングを追わないことにした。売上が止まるのは、痛いが・・。
関東地方でカー用品の実店舗を営業するC社のネットショップは、B社のマーケティングを追うことに決めた。できるだけB社の価格に近づけ、さらに付加価値をつけてB社に傾いた注文を引き戻そうとした。
九州地方でカー用品の実店舗を営むD社のネットショップは、主軸のドライブレコーダーのみB社のマーケティングを追うことに決めた。たとえ赤字でも最安値を守る。リスティング広告も高値で入札をする。ドライブレコーダーはD社のネットショップにお客様がアクセスするための導線になっているから、負けは許されない。
B社の攻勢・・というより、「暴走」に市場が動いた―――。
―――半年後、B社の社長はあることに気がついた。
インターネット上でのドライブレコーダーの最安値をキープし、リスティング広告も最上位を確保することはできた。徹底的にドライブレコーダーを売ることができた。売上も月商5,000万円まで到達した。ネットショップとしての旗は立てたはずだ。しかし、商売として利益が残っていなかったのだ。つまり、儲かってはいなかった。
想定では、赤字ぎりぎりのドライブレコーダーを買ってくれたお客様が再びネットショップでカー用品を購入してくれれば、利益が出るはずだったのだ。少なくとも、実店舗の経験からいえば、セールで呼び込んだお客様のうち数十%はもう一度来店してくれる。この考えが、インターネットでは全く外れていた。お客様との関係は、ドライブレコーダーだけで終わってしまったのだ。
値引きはした、広告費もかけている。赤字ぎりぎり。しかし、追随をしてくるC社がいる。D社もいる。E社もいて、F社もいる。それに、月商5,000万円分の注文を回すために雇用したスタッフやアルバイトもいる。B社のネットショップは、厳しい経営状態に陥っていった。
B社の社長はひとつの決断を下した。Eコマースからの撤退である。厳密にいえば、B社のネットショップは残したまま、これまでにおこなっていた積極的なマーケティングをやらない、という決断だ。インターネットは儲からない、約1年のネットショップ運営の末のB社の社長の認識だった。
B社が撤退し、値引き合戦と広告合戦によって荒れたドライブレコーダー市場だけが残った―――。
果たして、得をした会社はあったのだろうか―――?
同じころ、東北地方でカー用品の実店舗を12店舗運営しているG社は、Eコマースへの本格的な参入を検討していた。しかし、G社にはEコマースのノウハウがない。G社はとあるコンサルタントを呼ぶことにした。
「ドライブレコーダーを売りまくって、まずはインターネットの市場に旗を立てましょう。最安値を確保し、リスティング広告をかけます―――」
歴史はまた、繰り返すのだろうか。
おわり。
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