ECMJ(株式会社ECマーケティング人財育成)

「無駄打ちになる予算」を計画に入れ、新しい市場を探っていく【no.0816】

 学生時代の同級生で大手企業の役員にまでなった友達がいます。現在は独立して活躍中の彼ですが、以前私が座長を務めている勉強会で講演をしてもらったことがありました。その大手企業を辞めた直後だったかと思います。

 その中で、非常に印象に残っている話があります。

 大手企業の役員時代、彼は200名ほどのメンバーを組織する事業部長でした。事業部の予算を立てるとき、必ず「ロスする予算」を計算していたというのです。実績として見込む予算が全体の70%だとすれば、残りの30%がロスするための予算です。つまり、無駄打ちになる予算です。それを最初から予算の中に計上させ、メンバーに取り組ませていたのでした。

 彼が気にしていたのはこの「ロスする予算」がきちんと思ったとおりに「ロスしているか」でした。たとえ事業部の売上目標がマイルストーンどおり、もしくはマイルストーン以上に進捗していたとしても、「ロスする予算」が使われていなければ、つまり「計画どおりの損失」を出していなければ、事業部のメンバーに発破をかけたと言います。

 「ちょっと実践がコンサバティブ(保守的)なんじゃないか?」と。つまり、もっと新しいこと、未知のことにチャレンジして「ロスせよ」ということです。この指示をきっかけに、メンバーが自分たちの行動を顧みて普段おこなわないような挑戦の計画・実行プランを立て始めた。そんな話でした。

 さすが、大手企業の役員になった男だ、と感心した記憶があります。「ロスする予算」など、なかなか立てられないのではないでしょうか。と思う一方、中小企業のネットショップの世界では「他がやらないようなこと」をやらないと生き残れないのも現実です。実は中小企業こそ「ロスする予算」を計画に入れなければいけないのではないか、そう思うのです。

 大手企業なら「予算=お金」ということになりますが、中小企業が「ロスする予算」を立てるとするならば、それは「予算=お金」ではなく「予算=時間」ということになるでしょう。つまり、ネットショップの運営をきちんと回すルーチンの業務時間、ネットショップの運営に深みを持たせるカイゼンの業務時間の他に、ネットショップのルーチンにもカイゼンにも該当しない「ロスの時間」を持たせるということです。

 できれば、ルーチンの業務とカイゼンの業務だけでネットショップの売上が上がっていけば理想です。当たるか当たらないかわからない、時間と多少のお金が無駄になる「ロスの時間」などを設定したくはないものだと思います。「いまの業務」だけで時間がいっぱいだという意識もあります。

 ただ、「いまと同じこと」「いまのカイゼンの延長線上」にはどれだけの可能性があるのかも、同時に考えておきたいところです。自分のアイデアや価値観は狭く狭くまとまっていきます。思い切って開いた先の「ロスする予算」は、実は「ロス」ではないかもしれません。自分だけが「ロス」だと思っている可能性もあります。

 何をやるか思いついたら「ロスする時間」をつくろう、と思っていてはずっと「ロスする予算」を作ることはないでしょう。「思いついたとき」「余裕があるとき」「できるとき」は、「永遠にやらない」とイコールです。何をやるか、何をやってロスするかのアイデアがなくても、まずは手帳に「ロスする時間」を書き込んでしまいましょう。何をやるかは後から決めれば大丈夫です。

 まずは月に1日、できれば月に2日。「ロスする予算」の時間を取ってしまうことをおすすめします。この「ロスする予算」が実は「違い」を出すための近道になるかもしれません。

 おわり。

 

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ishida

石田 麻琴 / コンサルタント

株式会社ECマーケティング人財育成・代表取締役。 早稲田大学卒業後、Eコマース事業会社でネットショップ責任者を6年間経験。 BPIA常務理事。協同組合ワイズ総研理事。情報産業経営者稲門会役員。日本道経会理事。 UdemyにてECマーケティング講座配信中。 こちらから