大塚家具の親子バトル。ここはあえて、お父さんを弁護してみる【no.0528】
大塚家具の親子バトルが話題だ。
世間一般の意見を見ていると、娘さんの考え方を支持している人が多いように感じる。これまでの大塚家具の成長を支えてきたお父さんに対して、「もうそのスタイルは古いんだよ」「過去の成功体験を引っ張り続けている」「新しいマーケットを読めなくなっているのね」という意見がほとんどのようだ。
しかし、果たして、本当にそうだろうか?
娘さんの考え方が新しく(正しい)、お父さんの価値観が本当に古い(間違っている)のだろうか。ここはあえて、お父さんの考え方を弁護していきたい。
まず、娘さんの考え方である。これまでのコンシェルジュスタイルの大塚家具戦略の否定。そして、家具の「まとめ買い」ではなく「単品買い」へのシフト。コンセプト別の専門店化による市場ニーズのカバー。そして、「中価格帯」へのポジショニング。
マーケティングの理論からすると、「単品買い」「専門店化」「中価格帯のポジショニング」というキーワードは、一見すると正しいように感じる。しかし、顧客セグメント別のショップを出店する「専門店化」は、リアルの家具屋もネットの家具屋もすでに取り組み始めているところである。果たして、ここに家具屋としての差別性はあるのか。
そして、ニトリやイケアよりも「そこそこ良いものがそこそこ良い値段で手に入る」という「中価格帯」のポジションは、市場が二極化しているこのご時世、本当に存在しているのか。むしろ、そのポジションを「そこそこ良いものが安い値段で手に入る」というニトリやイケアが浸食したからこそ、今の市場があるのではないのか。もし、一時的に「中価格帯」に位置したとしても、ニトリやイケアが「中価格帯に近い品質で、より安いもの」を提供してくるのは目に見えている。
「単品買い」については、大塚家具が「まとめ買い」だけではなく「単品買い」にも対応すればいいだけの話なので、ここはまあいいとしよう。
「コンシェルジュスタイル」と「単品買い」「専門店化」「中価格帯のポジショニング」。このふたつを耳にしたとき、むしろ「差別性がある」と感じるのは「コンシェルジュスタイル」の方だ。このようなことをやっている家具屋は他にない。前述したとおり、リアルもネットも顧客セグメントを絞り「専門店化」を進めている。そして時代は、商品情報だけではなく、口コミやレビューが散乱している時代だ。情報過多である。
自分(顧客)がベストな家具選びをするために、果たしてどうすればいいか。それを口コミやレビューではなく、専門家・信用できる人に相談したい。そんな時代に入っていくのではないだろうか。
つまり、大塚家具の「コンシェルジュスタイル」は、「売りたい人」より「買いたい人」の多い時代から「買いたい人」より「売りたい人」の多い時代を経て、新しい「コンシェルジュスタイル」像が求められているのだ。この30年間で「情報のない時代」「情報の多い時代」「情報を選別する時代」と、コンシェルジュのニーズがひと回りしたのである。もし、お父さんがここまで考えているのならば、全くもってお父さんを支持できる。
ただし、新しい「コンシェルジュスタイル」を成功させるためには、顧客の「情報開示」の前に、コンシェルジュ側(大塚家具、店舗情報含め)の「情報開示」が徹底的に必要になる。家具の商品情報、販売価格だけではなく、コンシェルジュの名前、所属、顔写真、家具への知識、得意とするライフスタイル提案(商品の提案ではなく、ライフスタイルの相談ができるようにする)をインターネットを使って徹底的に発信することが求められる。
大塚家具という信用に、コンシェルジュの信用をつける。インターネットで情報を見た顧客が「大塚家具のコンシェルジュに私のライフスタイルに合った家具を提案してもらいたい」と考え、実店舗に来店する。顧客が名簿を書くのは抵抗があるだろうし、改良の余地もあるだろうが、「そこまでしてもコンシェルジュに相談したい」という人が現れるよう、徹底的に発信を続けることだ。そうすれば他社との間に絶対的な「違い」が生まれ、大塚家具の新しい道がひらける。「単品買い」「専門店化」「中価格帯のポジショニング」だけでは、残念ながら「違い」は出ません。
したがって、大塚家具は時流に合った新しい「コンシェルジュスタイル」をまず徹底的に確立し、市場に「カリスマ・ライフスタイル・コンシェルジュの大塚家具」というブランドを作る。それから「専門店化」を考えれば良い。これからの時代、付加価値になるのは「専門店」ではなく、「専門知識」なのですから。
以上、お父さんを弁護してみました。
おわり。
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