デフレーションの時代から、スタグフレーションの時代に。【no.0334】
以前お会いした経営者に、いきなり面と向かって言われて驚いたことがある。「インターネットでビジネスやってる人間は、日本のデフレ化に大きく加担してんねん。石田くんも、インターネットのマーケティングのコンサルタントとかやってんのか知らんが、お前もデフレ化の片棒を担いでいることを忘れるなよ」と。その方には、弊社の事業内容を説明していなかったので、その部分では多少認識のズレがあるのだが、確かにこの15年間でのインターネットの進化が、日本のデフレーションを加速させたとも、言えなくはない。
国民全員が消費をインターネットに頼っているわけではないが、私たちはインターネットを使って、商品購入前に下調べをするようになった。商品を検索し、価格の相場をみる。最安値で販売しているネットショップを探す。お客様に選んでもらうために、ショップ側もギリギリまで価格を落す。インターネットが無い時代は、地域で最も安いお店で購入していた商品を、全国で一番安いお店で買うようになった。特に顕著なのは家電であり、比較サイトの乱立がデフレーションを加速させたのは間違いなさそうだ。そう考えると、日本の家電メーカー、パナソニックやシャープ、ソニー等を追い込んだのは、私たちなのかもしれない。
とはいえ、インターネットの登場により、これまでの消費の生態系が一気に崩れるのは、自然の摂理ともいえる。商品の比較サイトや、限界まで(場合によっては限界以上の)値下げをするショップが出てくるのも、自然の流れだろう。しかし、デフレの時代もついに終わった、ついに日本はスタグフレーションの時代に入っている。
スタグフレーションとは、インフレーションやデフレーションと同じく、経済現象のひとつである。stagnation(停滞)とinflation(インフレーション)の合成語で、経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇が共存する状態を指す言葉。簡単にいえば、物価が上がり続けるにも関わらず、賃金がほとんど(一切)上がらない、そんな状態だ。
飲食店チェーンの松屋が、「プレミアム牛めし」を発売したのをご存じの方もいると思う。プレミアム牛めし(並)の価格は390円、従来の牛めし(並)の価格は290円だ。そして、ここで注目される点は、「プレミアム牛めしと牛めしは、併売されない」というところにある。つまり、お客様の選択肢は、290円の牛めしから、390円のプレミアム牛めしになり、実質的な、客単価アップに繋がるということだ。牛丼の価格競争といえば、デフレーション時代を象徴する出来事だったわけだが、松屋でさえ、価格を上げる(保つ)方向に切り替えた、ということだろう。
デフレーションは永遠に続くことはない。為替の変動や、原材料の高騰など、様々な要因があると思うが、中国や東南アジア、そしてアフリカ、これまで国内から海外に手を伸ばしてきた生産管理も頭打ちが見えてきたということだろう。詰まるところ、そんな発展途上国の人件費が上がり続けているのだ。松屋が牛めしの価格を落し続けることは、結局できない。よって、価格を上げ、利益を確保しなければいけなくなる。まさに、スタグフレーションの時代だ。
先月、「三方よし」についてのブログを書いた。全世界の人間がメディア化する情報社会においては、「バレなきゃOK」は通用しないと。企業として成長をしていくならば、「売り手よし」「買い手よし」ならず「世間よし」の視点が重要になると。しかし、「バレなきゃOK」を管理し、適正化していくためには、そのためのコストがかかるわけだ。そして、そのコストはどこに跳ね返ってくるかといえば、それは、販売価格ということになる。逆にいえば、今まで「バレなきゃOK」でやってきたからこそ、デフレーションを実現できてきたわけだ。
情報社会はデフレーションを加速させてきたが、情報社会はスタグフレーションも加速させていく。「三方よし」を重んじ、信用できるショップから適正な価格で商品を買うのか、「バレなきゃOK」に目をつぶり、管理に不安のあるショップから安い価格で買うのか。消費者の決断が迫られているようにも感じる。
おわり。
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