鬼切社長の心の中は、喪失感と寂しさであふれた。【no.0266】
ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら)
バタン!!
おにぎり水産の会議室には、猪井氏(いいし)先生がドアを閉める音が響きました。一瞬、大きな音が響き、その後には、静寂がおとずれました。そして、その静寂の中に、鬼切社長だけが立ちすくんでいました。
「そもそもそれ考えずに、広告なんかかけたらいかんじゃろ!なぁ!?」
猪井氏先生が最後に放ったこの言葉が、鬼切社長の頭の中から離れませんでした。猪井氏先生から初めて聞いた、怒気のこもったような声。鬼切社長に喝を入れたつもりだったのか、それとも鬼切社長のことを見限ったからこそのあの声だったのか。猪井氏先生と話した60分間の中で、どこか心の中で猪井氏先生に頼るようになっていた鬼切社長には、喪失感や寂しさのようなものがありました。鬼切社長は、ソファーにゆっくりと座り、頭を抱えました。
トントントン・・「失礼します」。
しばらくすると、ドアをノックする音がしました。事務の静子さんの声でした。「はい」。鬼切社長がこたえると、静子さんはドアを開き、紙切れを片手に、鬼切社長に近寄ってきました。
「鬼切社長、先ほど猪井氏先生が帰られるとき、猪井氏先生が来月の鬼切社長のスケジュールを確認されまして。7月24日の14時に次の来社をされることになりました。こちら、猪井氏先生からのお言付けです」
静子さんは鬼切社長にメモを渡すと、そそくさと会議室を出ていきました。鬼切社長は、4つ折りにされたメモを開きました。そこにはホワイトボードに残されている文字と同じ、猪井氏先生の達筆な文字が書かれていました。
『来月、また来ます。おにぎり水産のネットショップは、どんな人に買ってもらいたいのか、考えておいてください。一歩一歩着実に。焦らず、続けることが重要です。もし何か困ったら、こちらまで電話をください。XXX-XXXX-XXXX(猪井氏俊夫)』
メモを読むと、鬼切社長は大きく息を吐きだしました。鬼切社長は心から安心しました。自分は、猪井氏先生に見放されたわけではなかった。猪井氏先生は、きちんと次の予定を立てて帰っていってくれたのでした。鬼切社長は猪井氏先生の愛情を感じ、心が温かくなりました。そしてすぐさま、二子社長に感謝の電話を入れました。
「二子社長さん、おにぎり水産の鬼切です。今日、猪井氏先生が来てくれまして、先ほど会議が終わって帰られました」
「どうでした?猪井氏先生との話は。満足いただけましたか」
「はい。なんか、ネットショップのことで落ち込んどったんですが、猪井氏先生と話していると少しずつ元気と勇気が出てくるような気がして、なんていうんですかね、また頑張ろうっていう気になっています。ほんと、不思議ですよね」
「ははは。そうですね。私も何度、猪井氏先生に救ってもらったかわかりません。猪井氏先生は経験も豊富ですし、今まで見られてきた経営者の方の人数も多いですから、とても的確なアドバイスをしてくれるはずです。猪井氏先生から宿題は出ましたか?」
「おにぎり水産ネットショップのお客様を考える、という宿題をもらいました。お帰りになるときに、次のスケジュールを決められて、それまでに考えておけということみたいです。しっかり考えなきゃと思います」
「そうですか、それは良かったです。猪井氏先生、経営者の好き嫌いが激しいですから、鬼切社長は『面倒を見る』という方に選ばれたのだと思いますよ。経営者として曲がった考え方をしていたり、人間的に尊敬ができない人には協力しないのが主義みたいです。実は、ギョギョ水産さんも過去にご紹介したんですけどね。社長が、マセラティで出社をしているのを見て、すぐに付き合うのを辞めたみたいです。『社員は毎日、満員電車とバスで通勤している。社長が高級車で出社するのを見て、社員がどう思うかを考えないのか』みたいなことをおっしゃっていたみたいですね。うわべだけではなく、いろんなところを見られている方なんですよ」
「なるほど、私もそういうところがあるんで、気をつけます・・汗」
「鬼切社長、ご連絡ありがとうございました。これからは、いちいち私の方に連絡入れていただかなくて大丈夫ですからね。共に、インターネットで笹かまぼこの市場を広げられるように頑張りましょう」
「ありがとうございます。失礼します」
鬼切社長は今夜の商工会での飲み会のため、タクシーを使って出社していたことに幸運を感じました。鬼切社長は、ひとまずいつも通勤に使っているベンツを休日の趣味用とし、家族用に使っているヴォクシーで通勤することを固く決意しました。
つづきはこちら。
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