水産加工業者としては勝っていても、インターネットでは負けている。【no.0237】
ネットショップのあるあるストーリー、その壱つづき。(前回はこちら)
鬼切社長がにこにこ水産を訪れるのは初めてでした。二子社長と話すのもほぼ初めてです。二子社長は先代から事業を引き継いだ二代目社長です。鬼切社長は先代の二子社長とは交流がありましたが、息子の現二子社長とは20歳近く年齢が離れているので、商工会議所などでの会合があっても挨拶を交わす程度でした。しかも、水産加工業者としての売上は、鬼切社長のおにぎり水産の方が二子社長のにこにこ水産よりも上でした。なので、鬼切社長は二子社長(先代も二代目も)のことを心の中で少し見下しているところがありました。
ところが、インターネットという市場では、にこにこ水産ネットショップはおにぎり水産ネットショップの上をいっているのです。完全な笹かまぼこ製造の競合同士なのですが、二子社長は「先代もお世話になった鬼切社長が困っているならば」とネットショップについての情報交換に応じてくれたのでした。鬼切社長はこれまでの態度とはうって変わって、平身低頭をして二子社長と顔を合わせました。
「二子社長さん、今日は時間を取ってもらって、本当にありがとうございます。電話でお伝えしたとおり、ネットショップにチャレンジしているんですが、うまくいかなくて、どうしていいのかわからないんです。笹かまぼこの製造者としても競合、インターネットでの直販化を目指すネットショップとしても競合なのは十分理解しています。ただ、二子社長もよくご存じと思いますが、うちみたいな会社でも、直販化していかないと利益が確保できなくなっております。だから、インターネットのことはあまりわからないんですが、インターネットに力を入れていくしかないんです。ホント、厚かましいのは重々承知の上です。ネットショップのこと、教えてくれませんか」
鬼切社長が恐縮しながら話すと、二子社長は笑顔で答えました。
「鬼切社長、そんなに小さくならないでくださいよ。いつものどんと胸を張った鬼切社長でいてくださいよ。おにぎり水産さんは我々にこにこ水産の競合とはいえ、同じ宮城を盛り上げる、笹かまぼこのファンを全国に広げる『仲間』でもあるじゃないですか。先代からも、仲間を大事にしろと言われています。何でも聞いてください。まずは、これまでネットショップをどうやってきたのか教えてくれませんか?」
二子社長の柔らかい口調に鬼切社長は安心しました。そして、ネットショップを始めてからこれまであったことを順を追って話し始めました。
イーコマース事業のスタートを決めた理由。にこにこ水産と同じショッピングモールに出店したこと。事務の静子さんをネットショップの担当にしたこと。ある日、担当者がやってきて広告を薦められたこと。グルメ号の広告を出稿したこと。注文がたくさんきて現場がパンクしたこと。母の日広告に出稿したこと。ショッピングモールの笹かまぼこランキングで3位を獲得したこと。父の日広告に出稿したこと。値下げをしたにも関わらず、全然売れなかったこと。静子さんをネットショップ運営講座に行かせたこと。メールマガジンを2度配信したが空振りに終わったこと。そして、今日、にこにこ水産の二子社長に合いにきたこと・・。鬼切社長はこの6ヶ月間を振り返り、少し涙が出そうになりました。
二子社長は鬼切社長が話し終わるまで、ひと言も挟まず、真剣に話を聞いていました。鬼切社長が話し終えるのをしっかり待ってから、二子社長は口を開きました。
「鬼切社長、大変でしたね。包み隠さず全て話してくれて、ありがとうございます。いまお話しいただいた内容、ほとんど私が予想していた通りでした。正直、おそらくそんな状況にあるのだろうと思っていました。だから、一昨日、鬼切社長から電話がかかってきたときに、何となくネットショップのことだろうとわかっていたんです」
「えっ・・なぜ・・」。鬼切社長は唖然としました。
「鬼切社長、隣町のギョギョ水産、知っていますよね。我々と同じ、笹かまぼこを製造している会社です。ギョギョ水産も、一年前までネットショップをやっていました。しかし、おにぎり水産さんと同じような状態に陥り、結局ネットショップを辞めてしまったんです」
つづきはこちら。
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